震災直後の日本にエール。MotoGP王者のストーナーは誠実であり続けた (3ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 5位でチェッカーフラッグを受けたロッシは、レースを終えて即座にレプソル・ホンダのピットへ謝罪に訪れた。ロッシはヘルメット被ったままの姿だったが、ストーナーはすでにレザースーツを脱いでチームウェアに着替えていた。

 ヘルメットを被ったまま謝るロッシに対して、ストーナーは意外にも笑顔で握手を受け入れた。「肩、大丈夫だった? 前から痛めていたところだろ」と、そう言って、左手でロッシの右肩を何度か軽く叩いた。そして笑顔のまま続けた。

「どうみても自分にできやしないことを、やろうとするからだよ」

 ロッシにしてみれば、狙ったオーバーテイクが自らの力量を超えていたなどと評されるのは、歯噛みしたいほどの屈辱だ。ストーナーが笑顔でさらりと吐いたこの言葉は、強烈な嫌味以外のなにものでもない。だが、転倒の過失が自分にあるだけに、ロッシは言い返すわけにもいかなかった。それにしても、9回の世界チャンピオンを獲得した人物にこのような台詞をさらりと言ってのけることができる人物は、ストーナーの他にいないだろう。

 余談になるが、11年シーズンに10勝を挙げて年間王座に就いたストーナーが表彰台を逃したのは、このレースのみである。

 ものおじせず忌憚(きたん)のないこのような物言いには、彼の性格のある一面がよくあらわれている。だが、一方では、謙虚で正直な態度もまたストーナーという人物を特徴づける要素だ。後者の性格がよくわかる事例をひとつ、紹介しておきたい。

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