F1で戦う日本人エンジニア・小松礼雄の苦悩。「それも醍醐味」 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文・撮影 text & photo by Yoneya Mineoki

 根本的な問題は空力にあり、マシンとタイヤにかかるダウンフォースと荷重が設計どおりに機能していなかった。そのため、タイヤをうまく使えず、新品タイヤのグリップがある予選では速さを発揮できるものの、すぐにそのグリップが失われて決勝では大きくパフォーマンスを落とす、という繰り返しになっていた。

「負荷がかからなきゃいけないところでかからなくて、負荷がかからなくていいところでかかっていました。開幕から問題を抱えていて、第5戦・スペインGPでアップデートしたけど、そのアップデートも本当によくなかった。しかも、それが本当によくないとわかるまで、時間がかかりすぎてしまったんです」

 第5戦・スペインGP、第8戦・フランスGP、第11戦・ドイツGPと、次々にアップデートを投入していったが、それらは根本的な問題を抱えた当初のコンセプトに沿ってデザインされたもの。つまり、どれも問題を抱えており、マシンがよくなるはずはなかった。

「はっきり言うと、スペインGPで投入したアップデートは開幕仕様よりも全然よくなかった。最終戦のアブダビGPで使ったフロアなんて、(開幕前の)フィルミングデー(プロモーション撮影用に走行する日)で使ったのとまったく同じ仕様ですから。結局、お金をかけて(マシンを改悪して)性能を落としているようなものだったんです。残念ながら......」

 アップデートされたマシンを試したロマン・グロージャンは、データ上でのタイムは速くても、フィーリングは旧型のほうが優れていると語っていた。結果的に、グロージャンのその直感は正しかったわけだ。

「そう、ロマンが100%、正しかったんです。彼はすぐに自信が欠如してしまうタイプだから、『とにかくお前のフィードバックは正しかった。すばらしい』って何度も言いました。

 ロマンは『ポテンシャルはあるかもしれないが、感触はあんまりよくない』と言っていた。ただ、その段階では空力開発のプロセスに問題があるとはわかっていなかったから、チームとして『これを使わない』という判断を下すことができなかった。

2 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る