MotoGPマルケス圧勝の裏で、新世代が台頭しベテランは衰退 (3ページ目)

  • ニール・モリソン●取材・文 text by Neil Morrison
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu


「シーズンオフの間は出力向上に務めたのですが、それで多少の問題が生じてくることも織り込み済みでした」と、HRCのテクニカルディレクター横山健男は言う。「それでも、その方向で行くことにしました。問題が出たとしても、マルクは最高のライダーなのだから対応してくれるだろう、と考えたのです」

 しかし、ほかのライダーたちは対応できなかった。少なくとも、安定して走ることはできなかった。カル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)が2019年型RC213Vで表彰台を獲得したのは、ほんの数戦にすぎない。ロレンソは最後まで苦戦が続き、ついにトップテンフィニッシュを一度も果たせなかった。

 今季のマルケスの圧倒的な走りを見れば、ほんの1年前は左肩の負傷に苦しんでいたことがウソのようだ。完璧に体調が戻りきっていない前半戦ですらあの走りだったのか......とは、ライバルたちは考えたくもないだろう。

 あの身体の状態でも、5戦で勝ち、2位に3回入っているのだ。その後、第15戦・タイGPのフリープラクティスで転倒し、右肩を傷めた状態で終盤5レースを戦ったが、4戦で優勝。残りの1戦では2位表彰台を獲得した。

 とはいえ、マルケスはすべてのレースで支配的だったわけではない。ドヴィツィオーゾは安定してトップシックス圏内でゴールし、最終戦を終えて自己ベストの年間269ポイントを獲得した。

 旋回性に課題を抱えるドゥカティは、さらなる改善を果たした日本のライバルと互角に戦うことができず、ドイツGPの際にはあの沈着冷静なドヴィツィオーゾがついに感情を露わにする局面もあった。「僕たちは将来設計をきちんと組み立てなければならない」という彼の言葉は、実はドゥカティコルセのゼネラルマネージャー、ジジ・ダッリーニャに向けられたものだとも言われている。

 マルケスにとって真の脅威は次世代の選手層のなかで育まれているのだが、クアルタラロが最高峰クラスへのステップアップを表明した時には、まさかこのような事態になるとは誰にも想像できなかった。新結成のペトロナス・ヤマハSRTでセカンドライダーのポジションを獲得した段階では、優勝経験は2018年の第7戦・カタルーニャGP(Moto2)のみだったのだから。

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