山本尚貴がトロロッソで好走。思い出す30年前の「日本一速い男」の言葉

  • 川喜田研●取材・文 text by Kawakita Ken
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

「これまでF1は憧れの舞台でしたけど、ものすごく身近に感じることができましたし、もっともっとF1を知りたいなと思いました。より速いマシンをコントロールする技術が自分の中に芽生えたということは、スーパーフォーミュラ、スーパーGT、F1以外のカテゴリーのどのマシンに乗ったとしても非常に有益な経験になると思います。なにより、本当に初めて乗るマシンに対して、ここまで努力を重ねてきたことは、やっぱり裏切らなかったなと思います。あらためて努力することの大切さを感じます」

 そう語る山本尚貴の姿を見ながら、ふと、30年以上前に読んだ、往年の名ドライバー星野一義のインタビュー記事を思い出した。

 当時「日本一速い男」と呼ばれ、国内レースで無敵の強さを見せつけていた星野さんが、鈴鹿でウイリアムズ・ホンダのF1マシンをテストした時のインタビュー記事。その中で星野さんは、初めて「ターボ時代のF1マシン」をドライブした興奮を「こんな速いクルマに乗れるなんて、ホントに幸せなことだよ」と、素直に語っていたのだが、同時にその行間から、自分がそのマシンでF1を戦えないことへの悔しさや、複雑な思いが滲み出ているように感じたことを覚えている。

 その後、国内に留まり続けた星野さんは、それまで以上に「闘志」をむき出しにしながら、「日本一速い男」の称号に恥じない速さと強さを日本のサーキットで見せつけ続けた。

 今回のトロロッソでのドライブを経て、この先、山本にどんな未来が待ち受けているのか? その答えはまだわからない。だが、それがどんな未来であったとしても、山本尚貴というドライバーには、今回のFP1、90分のセッションを通じて得た経験や自信を自らの「糧」として活かす「力」を備えているように感じられた。そのことで、「モヤモヤ」が少しだけ、軽くなった気がした。

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