F1日本GP直前。旬を迎えた「秋のフェラーリ」を味わい尽くす (3ページ目)

  • 川喜田研●取材・文 text by Kawakita Ken
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 そこでまず「内紛」の火種だが、こちらは言うまでもなく、期待の超新星、シャルル・ルクレールとセバスチャン・ベッテル。チームメイトふたりの間で膨らむ「緊張関係」に注目したい。

 経験豊富な元F1世界チャンピオンと、急激に頭角を現してきた若きイケメンドライバーの「世代交代」をかけた争い......。まるで、往年の「セナ・プロ対決」を思わせるような両者のライバル関係は、すでに前半戦の時点で膨らみ始めていたが、シーズン後半に入り、フェラーリの戦闘力が上がったことで、一気にヒートアップ。今やフェラーリが抱える最大の「火薬庫」であり、両者の間で飛び散る青い火花が火薬に引火すれば、大惨事になりかねない......。

 フェラーリに抜擢されたばかりのモナコ人イケメンドライバー、ルクレールは自信に溢れ、一気にトップドライバーへの道を駆け上りつつある。内心「フェラーリのエースは俺だ!」と思っているに違いないし、おそらく、今シーズン中にベッテルをぶっ潰し、その立場を確固たるものにするつもりだろう。

 一方、そんな若きルクレールの勢いとプレッシャーに焦ったのか、一時は「自己崩壊気味」だったベッテルも、シンガポールGP以降は「元世界王者の意地」を取り戻しつつある。レッドブル時代に2度のF1世界チャンピオンに輝き「次は名門フェラーリで王座を」という夢に向けて戦い続けてきたベッテルにとっても、エースの座をそうやすやすと手放すわけにはいかないはずだ。

 問題は、そんなふたりのドライバーの緊張感をチームがうまくコントロールできるのか......という点だ。とくにシンガポールGPの一件(※ピットインのタイミングが影響し、トップを快走していたルクレールをベッテルが逆転)以来、ルクレールの不満は急激に膨らみつつある。その不満は、続くロシアGPでベッテルが「レース序盤にルクレールにポジションを譲る」という、事前の「チームオーダー」を守らず、しばらくトップを走り続けたことによって、さらに高まっているようだ。

 公言こそしないものの、ルイス・ハミルトンがナンバー1で、バルテリ・ボッタスがナンバー2という、チーム内の序列があるメルセデスと異なり、今のフェラーリには明確なドライバーの序列がない。これは、マシンやドライバーの速さだけでなく、ピットストップなどの戦略が大きな意味を持つ現代のF1で「戦略の選択肢」が限られることを意味している。

 かつて、フェラーリ黄金期の絶対的ナンバー1、ミハエル・シューマッハと、万年ナンバー2のルーベンス・バリチェロがそうだったように、ドライバーの明確な序列がある場合には、常にナンバー1が優先され、ドライバー同士の「公平」など無視して、勝利のための最適なレース戦略を選択することが可能だった。今年のシンガポールGPでメルセデスがハミルトンの順位を優先し、ボッタスに敢えて「ペースを落とせ」と指示した場面などはその好例だ。

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