MotoGPファクトリーチームが揉めている。
火種になったライダーの未来は

  • ニール・モリソン●取材・文 text by Neil Morrison
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 今年のサマーブレイクが明けたチェコGP(第10戦)でも、レース前の木曜に彼と会って話をしたよ。『いろいろ考えたけど、僕は恵まれた環境にいる。バイクも悪くない。だからがんばるよ。ひとつハッキリしているのは、シーズン後半から来年に向けて、僕は自分の立ち居振る舞いを変えていかなければならないということだ』。そう言っていたけど、(金曜になって走行が始まると)また同じことの繰り返しだった」

 じつは、この数カ月はザルコにとって苦しい期間だった。マネジャーのローレン・フェロンとの長年にわたる濃密な関係が昨冬、終止符を打ったからだ。

 Moto2時代に数々の成功を収めたマネジャーについてザルコが話す様子は、何か宗教の教祖をあがめる言葉を聞いているような感さえあった。ニースにある実家を離れて、アヴィニヨンにあるフェロンのトレーニング施設でザルコは厳しく苛酷なトレーニングに打ち込み、16勝47表彰台、そして2年連続の世界タイトルという栄冠を勝ち得た。

 だが、それは若者が人々と交流することによって形づくられてゆく、社会的な人格形成を犠牲にしたうえに成立したものだった。自らを薫陶した人物と袂(たもと)を分かつ場合は、えてしてある程度の順応期間を必要とするものだ。

「おそらく、巡り会った時期があまりよくなかったのでしょう」とベイラーは言う。「精神的に大きな支えだったローレン・フェロンと袂を分かった際に、何か大きなことが彼のなかで起こったのだと思います」。

 2017年シーズンを終えた冬にKTMと事前契約を交わしたフェロンの決断は、彼のマネジャーとしての力量をよく示しているが、性格的に癖が強いとはいえ、このフランス人だからこそ、ピットボックスでライダーをおとなしくさせておくことができたのだ。

「外から見れば、あのふたりは奇妙な組み合わせに見えたよ」とポンシャラルは回顧する。

「誰が見ても、破綻は時間の問題だった。いつも激しく口論していたからね。でも、ヨハンはローレンといると、なぜか最後はうまくいくんだ。

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