MotoGPファクトリーチームが揉めている。
火種になったライダーの未来は

  • ニール・モリソン●取材・文 text by Neil Morrison
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 新しいスイングアームやエンジン、エキゾーストパイプなどは、他の面での長所もあったはずだろう。だが、29歳のザルコはそこをほとんど評価することなく、フロントのフィーリング改善だけにこだわった。

 別のチームスタッフによると、ザルコはパーツ評価を4文字言葉で表すことが非常に多かったという。このパーツ評価が悩ましいのは、ただ4文字言葉を繰り返されるだけで、ポジティブな面はなにもなかった、というところだ。「たしかに彼からは、あまり"あめ玉"をもらえませんでしたね」とベイラーも述べている。

 しかし、ライディングスタイル以上に、彼の振る舞いや態度こそが、ザルコを今の境遇に追いやる決め手になってしまった。彼には、チームと良好な関係を築こうとする姿勢がほとんど見られなかった。「車体はクソの役にも立たないし、(エンジンは)クソほどもパワーをコントロールできない」と吐き捨てるように話す様子が、ヘレスでテレビを通じて世界に晒されてしまったが、これは日常茶飯の姿だった。

「感情をうまくコントロールできなかったのですね」とベイラーは言う。「思ったとおりにいかないと、彼はものすごくストレスを感じてしまうんです。このレベルの選手なら、成功するためには感情表現が豊かでなければならないのはもちろんですが、落ち着いて状況を分析することもまた、必要でしょう」。

 ザルコが移籍前に在籍していたTech3のボス、エルベ・ポンシャラルによると、ザルコは自分の短所を十分に自覚していたという。

「ヨハンとは、彼のライディングコーチ、ジャン=ミシェル・バイルを交えて、よく話をしたよ。彼はいつも、『僕はもっと冷静にならなきゃいけない。これはまだ新しいプロジェクトだから、一歩ずつ進んでいくということを理解しなきゃね』と言っていた。

 とくに問題も見受けられなかった。思慮分別のある人間だからね。ところが、ツナギを着てガレージに入り、5周も走ると、自分自身に戒めていた態度をコロッと忘れて、ピットへ戻ってきたらわめき散らしてしまうんだ。

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