室屋義秀はエアレース最終戦で「もう一度味わいたい感覚」がある (4ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki

 室屋が最終戦の劇的な逆転劇で年間総合優勝を果たした、2年前の"快感"である。

「あの時は、最終戦の前のレース(ラウジッツでの第7戦)の時から、やれるだけのことはやってきたっていう自信があって、勝っても負けても、ともかく実力を出し切れればいいやって、途中からちょっと楽しくなっていたんです。ラウジッツのラウンド・オブ・8あたりからかな。戦っていてもすごく気持ちがよくて、そうなると結局は勝てる。今までに勝ったレースでも、それに近い状態はあっても、そこまで完璧なゾーン状態はほとんど体験できませんでした」

 当時の感情が呼び起こされたのか、どこかうれしそうに、滑らかにしゃべり続ける室屋。その様子を見ているだけでも、ラウジッツでのレースがいかに特別なものだったのかが伝わってくる。

「そういう快感を味わえる人って、そうはいない。それを味わえる生活っていうのは、けっこう幸せなんじゃないかなと思うんです」

 自分を成長させてくれた、レッドブル・エアレースに感謝はある。それがなくなることに寂しさがないはずはない。

 それでも、世界最高峰の舞台でたどり着いた境地――完璧なゾーン状態をもう一度味わうためには、今はまだ感傷的になっている暇がない。

「千葉でのレースは年間総合優勝がかかり、メディアも注目する。いろんなプレッシャーがあるなかで、自分が今までにやってきたことすべてが試される、いわば、フルテストだと思っています。最後にもう一回、最高の準備をして、自分がどれだけの力を出せるのか。それが今は楽しみなんです」

 今季第3戦終了時点で、チャンピオンシップポイントランキングで3位につける室屋と、首位のマルティン・ソンカとのポイント差は10。室屋が最後のレースで何位になろうと、室屋が2度目の年間総合優勝を手にするかどうかは、ソンカ、あるいはランキング2位のマット・ホールの結果次第である。

 だが、細かな数字を頭のなかに巡らせることに、もはやあまり意味はないのだろう。

 史上最高の準備ができているか――。

 室屋は自らにそれだけを問いかけながら、歴史を締めくくるラストレースへ向かう。

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る