2019.09.04

室屋義秀はエアレース最終戦で
「もう一度味わいたい感覚」がある

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki

今季は第1戦と第2戦を連勝。第3戦は12位で、トップと10ポイント差の3位につける photo by Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool 怖いもの知らず、という言葉があるように、未知ゆえの勢いは決して軽視できない。実際、室屋はルーキーシーズンの最終戦で6位に入っている。

「それでも、ある程度のレベルまではたどり着くことができるんです」と室屋。だが、その先に待っていたのは、限界という壁だった。室屋が続ける。

「ガムシャラにやるだけでは、どのスポーツでもそうだと思いますけど、あるレベルから先へはたぶん進めなくなる。当時は、それがよくわからず、気合いを入れて飛べば何とかなると思っていました」

 当時の自分に何かアドバイスをするとしたら――。そんなことを尋ねると、室屋は苦笑いを浮かべて、首をひねった。

「うーん、いっぱいありすぎるな」

 頼りなかった新米パイロットも、参戦6シーズン目となる2017年には、ついに世界チャンピオンの座に就いた。

 2009年のデビュー戦から数えて、室屋がこれまでに戦ってきたレース数は53。一戦ごとにヒリヒリするような経験を重ね、その都度目の前に現れる壁を乗り越え、ようやくたどり着いた頂点である。

 涙の初優勝を飾った、思い出の地で迎えるラストレース。そんな自身54戦目は、これまでとは異なる、特別な感情が湧いてはきませんか――。

 ずっと感じていた疑問をあらためてぶつけると、室屋はさらりと受け流すように口を開いた。

「特別な感情を湧かそうと思えば湧くんでしょうけど、ひとまず消している感じです。感傷に浸ったからって勝てないし(苦笑)。だから、まずはレースに集中すること。最後に結果がともなっていれば、自分も一番感動できると思いますから」

 ただ――。室屋は、そうつないで語る。

「これだけ長い期間、こういうことをやらせてもらってきたことには感謝しています。だから、最後のレースにできるだけの準備をしたいんです。ベストの状態でどこまで戦えるか。今はそれだけを考えています」

 最高の準備でラストレースへ。室屋がそこにこだわるのには、理由がある。決して忘れることのできない、そして、絶対にもう一度味わいたい感覚が、いまだに体のなかにはっきりと熱を帯びて残っているからだ。