「レプソル・ホンダから離脱?」ロレンソとドゥカティの危険な火遊び (5ページ目)

  • ニール・モリソン●取材・文 text by Neil Morrison
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 気持ちよく走れない状態でも全力で攻めなければならないのなら、転倒が発生するのも無理はない。カタルーニャGPでは転倒リタイア、翌日のテストでも9コーナーで転倒。翌戦のアッセン(オランダGP)では、フリー走行でマシンから振り飛ばされて胸椎を骨折。

 とはいえ、そこからの回復は順調のようだ。7月にモルディブの豪奢なホテルのプールサイドでポーズを取る彼の写真を見たホンダのスタッフが、眉をピクリとあげた表情からも、それがうかがえる。というのも、ロレンソは復帰に向けて厳しいリハビリスケジュールに取り組んでいる真っ最中のはずだったのだから。

 ここで、ロレンソのチームメイトが、この冬に肩の負傷からの回復過程をどのように取り組んできたか見てみよう。

 負傷の種類が違えば治療やリハビリは当然異なるのだが、マルケスの場合はまるでレースウィークのようなひたむきさで回復を図っていた。専門の理学療法士を雇って自宅に住まわせ、1日4時間のメニューを立てた。苛酷なリハビリを休んだのは、クリスマスイブとクリスマス、大晦日と元日の計4日間のみだ。この真摯な取り組みに対して、さて、ロレンソの場合はどうだろうか。

 いずれにせよ、次戦のレースウィークは容易なものにはならないだろう。昨年9月から負傷の連続で、アッセンの転倒以前もRC213Vを意のままに操れる体調ではなかったロレンソが、トレーニングをできるまで回復してきたのは、ようやく最近のことだ。ここから先、レース人生で最大の試練からどうやってカムバックを果たすのかは、ひとえに彼の意志の力とライダーとしての能力にかかっている。

 ファクトリーマシンには、最新技術がふんだんに盛り込まれている。とはいえ、二輪ロードレースは人間がそのマシンを操る競技だ。マシンと人間の緊密な関係と相互理解がなければ、成功は望めない。また、自分を取り囲む人々との確固たる信頼関係がなければ、トップを狙うことなど薄氷の上を歩む行為にも等しい。

 ロレンソとダッリーニャのひと夏の危険な火遊びは、自分を信じてくれる人々を疑ったことに対する後悔、という形でどうやら決着しそうである。

西村章●翻訳 translation by Nishimura Akira

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