2019.06.10

室屋義秀が最後のエアレース王者へ。
勝敗のカギを握る新ルールへの対応

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki

 続いては、室屋が開幕戦を前に、いかなるオーバーGの対策を講じたのか。それを実際のレースにおけるセクタータイム(各ゲート間のタイム)を用い、具体的に検証してみたい。

 以下に挙げるのは、今季開幕戦のファイナル4における、優勝した室屋と2位のマルティン・ソンカ(レッドブルチーム・ソンカ)のセクタータイムを比較したものだ。

 数値は、各ゲート間の両者のタイム差を示し、単位はすべて秒。タイム差は室屋を基準とし、+の数字は、室屋がソンカを下回った(ソンカのほうが速かった)ことを表し、-の数字は、室屋がソンカを上回った(室屋のほうが速かった)ことを表している。

開幕戦のコース photo by Red Bull Media House GmbH/ Red Bull Content Pool【G1-G2】-0.009
【G2-G3】+0.010
【G3-G4】(バーティカルターン)+0.069
【G4-G5】+0.002
【G5-G6】+0.007
【G6-G7】+0.051
【G7-G8】(ハイGターン)-0.125
【G8-G9】-0.034
【G9-G10】-0.050
【G10-G11】(バーティカルターン)-0.133
【G11-G12】+0.034
【G12-G13】+0.008
【G13-G14】+0.122
【G14-G15】(ハイGターン)+0.045
※同コースを2周。G1からG8までが1周目で、G8からG15までが2周目。G1は図の右上で左回り

 最初に注目したいのは、最初のバーティカルターン(垂直方向の旋回)である「G3-G4」のタイム差である。ここで室屋は、ソンカに0.069秒も後れている。前後のゲート間のタイム差と比較しても、ここだけ数値が飛び抜けている。

 一般論で言えば、ターンの時にはGをかけたほうが速い。だから、パイロットはGをかけてターンをしたくなる。

 だが、Gをかけ過ぎればペナルティ。そのさじ加減が、各チームのレース戦略ということになる。

 機体の加速性能に自信を持つチーム・ファルケンは、ターン時のスピードをあまり重視していない。例えば、ペナルティぎりぎりの10.9Gまでかければ速いのはわかっているが、制限いっぱいまで利用しようとすると、気流の影響などで11Gを超えてしまう危険性があるからだ。

 むしろバーティカルターンでは無理をせず、スムーズな旋回を重視し、その後の加速につなげる。このG3-G4のセクタータイムにこそ、チーム・ファルケンのレース戦略が明確に表れていると考えていいだろう。

 そして、その後は両者のタイム差が僅少となり、(G7手前での強い追い風を考慮し、G6-G7で安全なラインを選択した室屋が再び0.051秒の後れをとるものの)、G7-G8以降、室屋が戦略通り、徐々にリードしていく様子がうかがえる。