トップ走行割合、実に70%。マルケスの神がかった速さにライバル脱帽 (5ページ目)

  • ニール・モリソン●取材・文 text by Neil Morrison  西村章●翻訳 translation by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

「ソフト(のフロントタイヤ)を履いているときは、誰かの後ろにいると厳しくなるから、新鮮な空気を得るためにがんばって攻めるんだ」

 だからこそ、ミラーが2周にわたってトップに立っていたときに、マルケスはすぐに反応したというわけだ。この点について、マルケスの新しいレースアプローチは必然から生まれたもの、ということができるだろう。

 あまりにも能力が卓越しているために、マルケスはほとんど不可能なことを、いともあっさりとやってのけているように見える。しかし、彼が今シーズンの実戦に臨む前に、完璧に近い体調で新しいスタイルを試すことができたのは、プレシーズンテスト1回だけなのだ。

 対照的に、カル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)は今年型マシンの特性に対応しきれていない。昨年は表彰台候補の常連だったものの、今年はまだコーナーに気持ちよく入っていく方法を見つけていないのだ。ヘレスで8位、ル・マンでは9位というリザルトが、その証拠である。

「データを見れば、マルクが何をやっているかはわかる。でも、ほかの誰にもそれを実践できない。単純な話さ」

 同じホンダ陣営選手のテクニックについて、クラッチローはこう説明する。

「進入から一次旋回で、バンク角を稼いでいって、それをフロントとリアブレーキでコントロールするやり方が、マルクの場合はかなり特殊なんだ」

 そう考えると、マルケスがミラーの弱点を突いて先頭を奪回した行為に、まさに神にもすがるようなごくわずかの啓示を見いだすことができる。

 次戦のムジェロ(第6戦・イタリアGP)で、ドゥカティが2、3台マルケスの前を走れば、即座に反応して前に出るのが不可能になり、フロントタイヤの熱と格闘することになるかもしれない。レースの興趣(きょうしゅ)という観点からも、誰かが何かしらの手を打つ必要がある、しかもできるだけ早いうちに。さもなくば、7度も世界の頂点を制覇した王者は、いともあっさりとライバルたちの最後の晩餐の儀式を執り行ってしまうだろう。

 そしてこの競技では、神はけっして救いの手を差し伸べはしないのだ。

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