トップ走行割合、実に70%。マルケスの神がかった速さにライバル脱帽 (2ページ目)

  • ニール・モリソン●取材・文 text by Neil Morrison  西村章●翻訳 translation by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 今年の5戦を振り返ってみると、マルケスは全119周のうち、84周でトップを走行している。これは、レース周回数の70パーセントに相当する。そのうち優勝した3レースでは、77周中75周で後続選手を一方的に引き離して先頭を走行していた。

 77周中75周といえば、実に97パーセントである。この数字を見る限りでは、バトル上等が持ち味のマルケスよりもむしろ、無敵の王者ミック・ドゥーハンのものかと思いたくなるほどだ。

 過去のデータと比較すれば、今年の傾向はさらにくっきりと浮かび上がる。

 去年は、全18戦中でマルケスがトップを走行したのは、431周中の29パーセント。彼が優勝した9勝を見ると、221周中の100周、すなわち45パーセントでレースをリードしていた計算だ。

 マルケス自身が無敵だと感じていたという2014年シーズンを見ても、全448ラップ中で彼がトップに立っていたのは"たった"47パーセントにすぎない。この年に勝利した14戦に注目しても、先頭を走っていたのは全周回の半分を少し上回る程度(324周中184周、56パーセント)なのだ。今年の77周中75周でリード、という内容からは、はるかに劣る。

 王者はその力を誇示するために、新鮮なモチベーションと新たな勝ちパターンを常に模索しているものだ。ドゥーハンは最盛期以外でも容赦のない勝利を続けたライダーだったが、それを可能にしたのは、常に気持ちを新たにし、さらなる高みを目指すことのできた彼の能力ゆえだ。

 1995年に易々と王座を手にしたドゥーハンは、翌96年はさほど熱心にトレーニングにもとりくまず、接戦を歓迎するふしもあった。だが、その次の年はハードルを上げることを自らに課した。NSR500のビッグバンエンジン仕様から、さらにワイルドでライバルたちの手に余るスクリーマーエンジンを唯一選択したのだ。「みんなの心を乱してやろうと思ったわけさ」というコメントは、昨年に彼に会った際に聞いた話だ。

 ル・マンのレースウィーク初日を終えた金曜日にマルケスが述べたのは、新しい戦術としてドゥーハンのこの計略を用いて、ドヴィツィオーゾやアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)たちの決勝に向けた積み上げを攪乱しようというものだった。

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