2019.04.27

平成のF1狂騒曲。中嶋悟の鈴鹿ラストランとアイルトン・セナの時代

  • 川原田剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 しかし実際のレースは、思いもよらない展開となっていく。セナは予選で3位とチームメイトのゲルハルト・ベルガーの後塵を拝し、決勝でもスタートから飛び出したベルガーがトップを快走していく。そのうしろでセナはマンセルと2位争いを演じるという展開が続いていった。

 両者の間合いがジリジリと詰まっていき、ついに本格的なバトルが始まると思われた10周目、マンセルは1コーナーでコースアウト。サンドトラップに突っ込み、そのままリタイアに終わる。その瞬間、セナとマクラーレンのタイトル獲得があっけなく決まってしまうのだ。

 もうひとりの主役、中嶋悟のレースも期待外れの幕切れとなる。予選15位に終わった中嶋は、決勝では観客の大声援を受け徐々にポジションを上げていく。ところが11位を走行していた31周目、サスペンションが破損してS字コーナーでクラッシュ。力を出し切ることなく、不完全燃焼のままマシンを降りることになった。

 その後、セナはマシンに不調を抱えたベルガーを抜いてトップに立ち、チームメイトを従えながら淡々と周回を重ねていく。最終ラップに入り、このままの順位でマクラーレン・ホンダがワンツーを達成すると誰もが思ったが、最終コーナーの手前でセナが突然スローダウン。チームメイトに勝利を譲るという予想外の結果となった。

ファンに手を振るセナ(写真は1992年の日本GP) 今、冷静に振り返ってみると、セナが勝利を譲ったというサプライズはあったものの、格別エキサイティングなレースではなかった。それでも91年の日本GPの各場面は、いまだに多くの人の記憶に刻まれている。

 中嶋がクラッシュしたことが場内放送で伝えられた瞬間のファンの悲鳴。S字コーナーでリタイアした中嶋がファンに手を振りながら小走りでコースを去っていく姿。チェッカーフラッグを受けた後、コース脇でファンの少年に渡された小さなブラジル国旗を手にしてウイニングランをするセナ。そして表彰台で自らシャンパンをかぶるセナの、まるで涙を流しているかのような表情……。

 ファンはF1に熱狂し、セナとホンダは勝ち続け、パイオニアの中嶋は引退するが、次世代の日本人ドライバーが近いうちに優勝してくれるだろう……と考えていた。