ホンダが「F1で勝つドライバー」育成に本腰。「速く走るだけではダメ」 (3ページ目)

  • 川原田剛●取材・文 text by Kawarada Tsuyoshi 樋口 涼●撮影 photo by Ryo Higuchi

「僕と琢磨ではこれまで戦ってきた軌跡は多少異なりますが、国内外のさまざまなレースに参戦し、いろんな経験をしてきました。そこで困難や壁を突破するためにどうすればいいのかということを学んできました。それを生徒たちには少しずつインプットしていきたいと思っています。

 世界のトップで勝つためには速く走るための技術を持っているのは当たり前です。それにプラスして人間力を身につけていないといけないと考えています。実は、そこが世界で戦う上では一番大事なポイントで、教えるほうもすごく難しいところです。

 僕は琢磨のことをスクールの生徒の時代からずっと見ていますが、彼がすごいのはクルマに乗っている時はもちろんですが、降りたあとなんです。たとえば今回、SRSの新しい育成プロジェクトが実現したのも、彼が次世代の若手を育てたいという思いが周囲を動かしていきました。彼が求心力になり、いろんな壁を乗り越えていきました。

 世界でトップに立つ選手たちは、そういうことが当たり前にできるんです。SRSの生徒たちには、そういう力を身につけてくれることを僕は望んでいますし、そのためのサポートを琢磨とともにやっていきたいと思っています」

 レーサーとしての純粋な速さと人間的な魅力を兼ね備え、F1やインディカーのような世界のトップカテゴリーでチャンピオン争いをする日本人ドライバーが誕生するのはいつになるのだろうか......。

 ホンダとパートナーを組むレッドブルも「未来のF1チャンピオンを探す」という目標を掲げ、2001年にドライバー育成プログラム、レッドブル・ジュニアチームを設立し、数々のドライバーを輩出してきた。しかしサポートドライバーのセバスチャン・ベッテルがF1で初めて優勝したのは2008年、初タイトルを獲得したのは2010年だった。

 ベッテルが誕生するまでには、何人ものレッドブル育成ドライバーがF1を目指してチャレンジし、結果を出せずにサーキットを去っていった。

 SRSからベッテルのようなドライバーが出てくるまでには、レッドブルと同様に相当な時間がかかると考えておいたほうがいいだろう。佐藤琢磨と中野信治も「このプロジェクトは長いものになる」と口をそろえている。

 とはいえ、日本のレースファンや関係者が待ち望んでいた「世界のトップカテゴリーで日本人のチャンピオンが誕生する」という夢の実現に向けて、確かな一歩を記したことは間違いないだろう。その日が一日でも早く来るのを期待しつつ、忍耐強く見守っていきたい。

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