ロッシ転倒、またも勝てず。
マルケスの追い上げに「今季最初のミス」

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 健全なライバル関係の域を超えて、一触即発の緊張がピークに達していた両者の微妙な距離感は、このレースでマシン同士が接触し、マルケスの転倒という最悪の結果で決定的な破綻を迎える(ちなみに、このときの接触が意図的なものであったかどうかに関して、当事者両名に取材をしない無責任な言説がいまだに流布しているふしもあるが、当日の事態の詳細と両選手の主張については、『Webミスターバイク』などの拙稿を参照していただければ幸いである)。

 おそらく、前を走るロッシにも、それを追うマルケスの脳裏にも、このときのことは脳裏にあったはずだ。ロッシが上記のような驚くべき高水準の走りを維持していたのは、後ろからマルケスが追ってきていることとも無縁ではなかった、と推測するのは、けっしてうがち過ぎではないだろう。マルケスとの距離が0.1秒、0.2秒と詰まってゆき、差が0.6秒少々になった17周目の1コーナーを、ロッシは次のように振り返っている。

「攻めていたのは確かだけれども、スロットルを開けたときに思いのほか、リアが滑りはじめた。フロントが限界だったところにリアが滑りはじめ、その結果、転んでしまった。

 残り5周(実際には4周)だったので、最後まで攻めるつもりだった。マルケスが少しずつ近づいてきたから、彼が迫ってくるのをできるかぎり遅らせたかった。いいレースをできると思っていただけに、転んでしまったのは本当に残念だ」

 後ろから迫ってくるマルケスに追い抜かれて、ずるずると差を開かれてしまう無様なレースをするくらいなら、ギリギリの状態でも限界まで攻め続ける、という意地と矜恃が、最終的にこのような顛末を招いたのだろう。

 そして、「今季最初のミスだと思う。アルゼンチン以外では全戦、レースを完走しているから」ともロッシは述べた(もうひとつ余談を述べておけば、このアルゼンチンの転倒ノーポイントはマルケスとの接触によるものだ)が、「クラッシュは最悪だったけど、それまでの15周は夢のようだったよ」と笑顔で話す大人の余裕も垣間見せた。

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