小林可夢偉はあきらめない。攻めの一手で2年ぶりのWEC優勝 (2ページ目)

  • 吉田知弘●取材・文 text by Yoshita Tomohiro
  • 吉田成信●撮影 photo by Yoshida Shigenobu

 予選までのドライから一転して、決勝はウェットコンディション。スタート時には雨は止んでいたものの、前日の夜から降り続いていた影響で路面上の水量が多い状態だった。

 ここで7号車は可夢偉の提案により、カットウェットタイヤを選択。ウェットタイヤよりさらに溝を増やしたタイヤを装着してスタートを迎えた。

「スタート時は降っていなかったけど、風がなかったから、簡単に路面が乾くことがないだろうと思いました。今週末はドライコンディションだと簡単に抜けない状況だったので、スタートで前に出るしかチャンスはないなと。スタート直後にすぐ前に出て、その後に(タイヤの消耗で)ペースが伸びなかったとしても、少なくとも8号車と勝負はできるかなと思って。この作戦はある意味賭けでしたが、カットウエットというタイヤを選びました」(可夢偉)

 しかし、この選択は失敗だった。クラス最後尾の8番手からスタートし、3周目には2番手に浮上するものの、8号車のほうがペースは速く、8周終了時点でその差は15秒になっていた。可夢偉も1周目から思ったような手応えを得られておらず、「この選択は失敗だった」と気づいたという。

 このタイヤで走り続けるメリットがないと判断した7号車陣営は、予定よりも大幅に早く1回目のピットインを行なう。後手が続く展開に陥りそうな場面だったが、可夢偉はあきらめずに次なる「攻めの一手」を打った。なんと、スリックタイヤに交換するという賭けに出たのだ。

「あの時点でスリックタイヤを履いているライバルはいませんでしたけど、すでにこれだけ失敗しているから、一気にスリックに交換して勝負に出るしかないなと。チームからは、『スリックに交換するのはまだ早い!インターミディエイト(小雨用の溝が少ないタイヤ)だ!』と反対されました。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る