2018.09.05

小林可夢偉、初の表彰台。
鈴鹿を埋めた10万人のエネルギーが爆発

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 14周目にバトンがピットインし、アンダーカットを仕掛けてくる。前が開ければ、後方のマッサが本領を発揮してプッシュしてくるのは目に見えていたが、可夢偉はバトンの前にとどまるべく、ここでピットに飛び込んでバトンの前でコースに戻った。目の前にはまだピットインしていないトロロッソのダニエル・リカルドがいてタイムロスを喫し、18周目まで引っ張ったマッサは案の定、可夢偉の前で戻り、2台のオーバーカットを成功させた。

「バトンかマッサ、(前にとどまるには)どちらかを取るしかなかったんです」

 いつもは焦って取り乱し、戦略をミスするザウバーの技術陣も、このときは冷静だった。1台に先行されても、まだ3位。

 レース終盤に向けて、バトンは追撃の手を強めてきたが、可夢偉は先に2度目のピットストップを済ませ、バトンにアンダーカットのチャンスを与えなかった。

 バトンにはチームから「表彰台を獲りにいくぞ」と容赦ない無線が飛び、可夢偉とのタイム差は2秒を切ってくる。ピットウォールでは、何としてでも可夢偉に表彰台に上がってもらいたいモニシャ・カルテンボーン(ザウバー代表)が手を合わせて祈り、チームマネージャーのベアト・ツェンダーは頭を抱えて、もうモニターを見つめることすらできなくなっていた。

 しかし、この日のタイヤの保ちがよくないことを察知していた可夢偉は、レース中盤にわざとペースを抑えて走り、リアタイヤを温存していた。そして、レース終盤のバトンからの猛攻に備えていたのだ。

 可夢偉は53周を走り切り、3位でチェッカードフラッグを受けた。

 その瞬間、サーキット中が大興奮に包まれ、「可夢偉! 可夢偉!」と可夢偉コールが沸き起こった。可夢偉のファンも、バトンのファンも、優勝したベッテルのファンも、誰もが目の前で繰り広げられたすばらしいレースと、そこに辿り着くまでの苦難のドラマに感動していた。