山本尚貴、2年ぶり優勝に涙。「天国のおばあちゃんが勝たせてくれた」 (2ページ目)

  • 吉田知弘●取材・文 text by Yoshita Tomohiro
  • 吉田成信●撮影 photo by Yoshida Shigenobu

 しかし山本は、祖母の他界を周りに打ち明けることはしなかった。

「子どもが生まれて、おめでたいタイミングだったので、ずっと(周りには報告せず)心のなかにとどめていました」

 周囲への気遣いを欠かさない、山本らしい配慮だった。

 山本は今年、スーパーGTでジェンソン・バトンと組むことになった。元F1王者とともに戦う開幕戦を、誰よりも楽しみにしていたのも祖母だった。

「JB(ジェンソン・バトン)と組むということを、すごく喜んでくれました。おばあちゃんはずっとレースを見てくれていたから、『F1のチャンピオンと組めるなんてすごいね!』と言ってくれて......。スーパーGT開幕戦の岡山もすごく楽しみにしてくれていたんです」

 バトンと一緒に活躍する孫の姿を誰よりも心待ちにしていた祖母だったが、残念ながらその思いは叶わなかった。

 4月7日~8日に行なわれたスーパーGT開幕戦。山本は左腕に喪章をつけて臨んだ。「このレースを一番楽しみにしていたおばあちゃんのために、いいレースがしたい」。その思いを胸に、山本はマシンに乗り込んだ。

 レース序盤、スタート直後の混乱でバトンの順位が下がったのを見た山本は、自らタイヤ無交換作戦をチームに直談判する。その決断は功を奏し、9番手から2番手まで挽回することに成功。さらにはレース終盤、タイヤの消耗が限界まで達しているのを知りながら、山本は果敢にトップの塚越広大(KEIHIN NSX-GT)を追いかけ続けた。

 結果は2位。天国の祖母に勝利をプレゼントすることはできなかった。だが、同時に「もっと努力しないと勝てない」と、さらに自らを追い込む原動力にもなったという。

 そして迎えたスーパーフォーミュラ開幕戦。今年からF1のように異なるスペックのタイヤをレース中に履き分けなければならないルールとなり、各チームは予想以上の暑さの影響もあってセッティングに苦しんだ。そんななか、鈴鹿を得意とする山本は底力を発揮し、予選でポールポジションを獲得する。

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