父の病、横転クラッシュも「町工場のGT王者」チーム土屋の心は折れず (3ページ目)

  • 吉田知弘●取材・文 text by Yoshita Tomohiro
  • 吉田成信●撮影 photo by Yoshida Shigenobu

 だが、タイでのチーム土屋は、前戦までのような「他を圧倒する速さ」を披露することはなかった。結果は15位。チャンピオン候補から一転し、最終戦を待たずにその可能性を失ってしまう。最終戦・もてぎは5位でフィニッシュ。VivaC team TSUCHIYAは総合6位でシーズンを終えた。

「鈴鹿で順当に2位フィニッシュできていたら、タイでも表彰台あたりまでいけたかもしれません。最終戦・もてぎも調子がよかったので、年間チャンピオンを獲得できていた可能性もあったと思います」

 シーズン終了後、土屋武士は鈴鹿でのクラッシュを後悔しているかと思われた。ところがこちらの予想に反し、彼は鈴鹿でのクラッシュを「プライベーターとして一番重要なことを再確認できた、いい機会」と前向きに捉えていたのである。

「たとえば同じ(モデルの)靴でも、長年履き慣れたものと新品とでは、履き心地が違うじゃないですか。『なぜ鈴鹿であんなに速かったのか?』と考えたときに、それは馴染んだ靴を履いていたからなんです。常にクルマのことを考えて、メカニックと一緒に(クルマに)触って、パーツのひずみを見て、各部を細かく計測して......。そういうことをコツコツやってきたから、あのスピードが実現したのだと。

 だから、クラッシュして(同じように)新しく組み直したからといって、(パフォーマンスが)同じになるということは絶対にあり得ないんです。そのアルミを何年使っているのか、その鉄を何レース使っているのか......。それらも含めてすべてが『セットアップ』なんですよね。

 コピー用紙1枚は薄っぺらいけど、積み重ねていくと分厚くなるのと同じように、僕たちは常に0.001秒を削ることを積み重ねてきただけです。周りからは『速い』と言われていますが、それをずっとしつこくやってきただけなんですよね。今回は鈴鹿でのクラッシュで(積み重ねてきたものが)リセットされました。『プライベーターというのは、そこをサボったら絶対に勝てないんだな』というのがわかったシーズンでした」

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