エアレース第5戦でまさかの大惨敗。室屋義秀の心身に何が起きたのか (5ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by red bull

 振り返ってみれば、それは当然のことでもある。

 第2戦を制したことで、続く第3戦、すなわち地元・千葉で行なわれるレースでは、かつてないほど大きな重圧が室屋の肩にのしかかった。

 ファン、マスコミ、スポンサー、すべての人間が期待したのは、地元レースでの連覇である。室屋はフライトトレーニングに精を出すと同時に、機体が活動拠点である福島に届けられてからは、寸暇を惜しんで改良にも取り組んだ。

 想像を絶するプレッシャーをはねのけ、見事に地元レースでの連覇を成し遂げた後も、祝賀会が続き、一息入れることすらままならない。次戦への準備もそこそこに、ハンガリー・ブダペストへと飛び立たなくてはならなかった。

 そして、ブダペストでのレースから3週間後、大きなダメージを負っていた室屋の心と体は、ついにカザンで悲鳴を上げた。

「サンディエゴからほぼ休みなしでここまでずっとやってきて、自分では気がつかない意識下の部分ではあるけれど、心身ともにやっぱり疲労はあると思う」

 室屋がそう認めたように、平常心を失い、驕りが生まれ、守りに入ってしまったのも、つまるところ、積み重なった疲労によって心も体もむしばまれていたからに違いない。(いずれも、ごくわずかとはいえ)思考が低下し、体の反応も鈍くなっていた室屋に、もはやいつもの"らしさ"を発揮できるほどの余裕はなかったということだろう。カザンでの3日間、日を追うごとに室屋のフライトは精彩を欠いていった。

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