バトンのレーシング魂はまだ燃えていた。
熱い走りに復帰待望論も

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki

「仕掛けたこと自体はフェアな判断だったと思う。ひとつ前のコーナーの立ち上がりで僕のほうがトラクションは格段によかったし、彼は片輪をタイヤカスに乗せてしまってグリップを失っていたんだ。だからインに飛び込んでいった。僕はインを突いて十分に入っていると思ったけど、彼が後ろを見ていなくてドアを閉じてきたのがわかったから、ブレーキングしてなんとか回避しようとしたけどもう手遅れだった。あのミラーじゃ後ろなんて見えないしね」

 リアウイングが低く大きくなった今季型マシンでは、リアビューミラーの視界が極めて悪く、モナコのような曲がりくねった場所ではほとんど用をなさない。初めて今季型マシンに乗った木曜の走行後にバトンがFIAとチームに対して報告していた、まさにそのとおりの事故が起きてしまったのだ。

 マシンを壊してしまったことをチームに謝罪しながらも、しかしバトンは言い切った。

「チャンスがあればそれを掴みに行くべきだと思うし、それがレーシングドライバーというものだからね」

 ただ漫然と走り切るのではなく、ピットストップで攻めの戦略を採ったこと、チャンスがあれば飛び込んでいくこと――。半年ぶりのレースとは思えないほど、バトンのレーシングドライバーとしての魂はまったく失われてはいなかったのだ。

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