ハミルトンの策謀にも慌てず騒がず。
ロズベルグが初のF1世界王者に

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki

 しかし、それは何としてでも逆転したいという、ハミルトンのタイトルに賭ける執念だった。

「自由にレースをさせてくれ! 僕はチャンピオンシップを失いかけているんだ。このレースで勝てるかどうかなんて問題じゃない!」

 無線でそう訴え、最後までゆっくりとしたペースで走り続けた。結果、最後はトップ4台が超接戦になった。

「今まで戦ってきたなかで、もっとも楽しいレースじゃなかったね。特に最後の数周はね。ルイスはゆっくり走るし、後ろからはプレッシャーを受けるし。そこで順位を落とせば、すべてを失ってしまうんだからね。本当にタフだった」

 2位のロズベルグから4位のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)まで、わずか1.246秒。ロズベルグにとっては、そのたった1.246秒の差で2016年のタイトルを逃す可能性があるのだ。意図的に前を抑え込まれたもどかしさと、背後から迫り来る2台のプレッシャーの狭間で、薄氷を踏むような数ラップだった。

「僕はタイトル争いのことは考えず、目の前のレースで勝つことだけを考えて戦う」

 シーズンのずっと以前から、ロズベルグはことあるごとにそう言い続けてきた。タイトル争いを意識せず、その重圧から眼を逸らし、正面から向き合うことを拒否してきた。

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