トヨタの悲願達成ならず。中嶋一貴が語ったル・マン24時間のラスト3分

  • 川喜田研●取材・文 text by Kawakita Ken 写真提供:トヨタ自動車

 マシンから降り、目を赤く腫らせた中嶋にチームスタッフが駆け寄る。残りわずか3分弱で、突然その手から滑り落ちたル・マンの勝利……。トヨタチームの誰もが目の前に起きた現実を理解できず、ある者は茫然自失し、ある者は泣いていた。

チームスタッフに抱えられる中嶋一貴チームスタッフに抱えられる中嶋一貴「これがレースの厳しさ、ル・マン24時間の難しさだ」と言われても、受け入れるにはあまりにも過酷な運命のイタズラに、望外の勝利や表彰台を得たポルシェやアウディのドライバー、チーム関係者も我がことのように心を痛め、深い悲しみとショックに沈むトヨタチームに次々と慰めの言葉を掛ける。

「今年のトヨタは本当に素晴らしくて手強い、優勝するに値するチームだった……。私たちの心はあなた方と共にある」

 それは、ル・マン史上稀に見る超ハイペース、超ハイレベルの接戦を戦ったライバルへの心からの敬意であり、同じモータースポーツの世界で生き、その厳しさと苦労を、そして勝利への気持ちや悔しさを分かち合う彼らの、心からの言葉だったと思う。

 昨年までル・マン通算最多の17勝を誇る王者ポルシェが、そして同じく通算13勝を挙げているアウディが、「悲願の初勝利」に向けて全力で戦い、勝者に値する素晴らしいレースを見せたトヨタに対する最大限のリスペクトを示して、その悲しみや悔しさを分かち合おうとしていた。

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