インディ500優勝の新人ロッシとホンダが挑んだ驚異の「燃費作戦」

  • 天野雅彦●文 text by Masahiko Jack Amano   松本浩明●写真 photo by Hiroaki Matsumoto

 ロッシは今にも止まりそうなスピードでゴールラインを横切った。燃料が底をついていたのだ。満タンで走れるのは30周が限界と言われる中、彼は最後の給油から36周を走ってゴール。チームの大ギャンブルを成功させた。ゴール目前でピットに滑り込み、短い給油を行なったライバルたちは、ロッシに5秒ほど届かなかった。

 インディカーでの経験が非常に少ないロッシ。ゴール前の30数周の間、ピットからは無線による指示が飛び続けていた。ロッシは相手がチームメイトでも誰でも、とにかく前を走るマシンと同じラインをとり、背後にできる限り接近し、燃費を節約するため空気抵抗を減らして走り続けた。それでも、最終ラップの1周前のターン4(最終コーナー)で彼のマシンはガス欠症状に襲われた。残された燃料を使い尽くしてチェッカーフラッグの待つメインストレートに現れると、ロッシは失速するマシンのクラッチを切り、惰性でゴールラインを横切った。

 カリフォルニア州北部、州都サクラメント近郊で生まれ育ったロッシは、F1グランプリを目指してヨーロッパでGP3、GP2を戦い、2015年にはマノーマルシャF1チームから終盤の5戦に出場するところまで到達した。しかし、チームの体制変更などがあって、ロッシのレギュラーシート維持、F1へのフルエントリーという夢の実現はならなかった。

 F1残留の可能性を最後まで探っていたロッシがインディカーで走る決意をしたのは、もう開幕が間近に迫った2月だった。

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