【エアレース】
室屋義秀が強くなったからこそ味わう「勝つことの難しさ」

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki

「オリジナルでプログラムを組んで準備してきたものが全部吹き飛んで、あとはパイロットの感覚だけで飛ぶしかなかった」

 結果的に勝負を分けたのは、最後のバーティカルターン(180度ターン)だった。ラウンド・オブ・14に入ってから、すでに同じ個所でふたりがオーバーGのペナルティを犯していた。また、コースこそ違えども、第3戦では同じ状況のターンで室屋自身がパイロンヒットしていた。そうした事実が室屋の感覚にブレーキをかけた。

 最後のバーティカルターンに入る時点で、「マティアスより前に出ている(リードしている)と思った」という室屋はリードを守ろうと「少し確実なラインを取った」。だが、室屋のタイム1分2秒279は、ドルダラーとの差0.207秒。結果的に「そこ(最後のターン)でコンマ3秒くらい遅れてしまった」ことが勝敗を分けた。

 レース後のハンガー(格納庫)では、次戦へ向けて早くも動き出している室屋がいた。チームスタッフとともに機体の前に座り込み、あれこれと改良点について話し合っていた。

 だが、その表情にはどこか覇気がなく、目にも力が感じられない。第3戦の後は目を血走らせ、怒りにも近いほどの悔しさをにじませていたのとは大きな違いだった。

 2戦連続で予選2位という結果が、逆に室屋にプレッシャーを与えているのか。あるいは、思わぬトラブルで力を発揮し切れなかったことに、まだ気持ちの整理がついていないのか。理由はどうあれ、室屋に少なからずショックが残っていたとしても不思議はない。

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