【F1】可夢偉の本心。「もしかしたらこれで最後なんかなぁ」

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 スーパーソフトタイヤでスタートした可夢偉は、レースを精一杯楽しむかのように好ペースでザウバーを抑えて走った。しかし、左リアのブレーキダクトにタイヤカスが挟まり、そのせいでブレーキが過熱してフェード(ブレーキが効かなくなる現象)に見舞われ始めた。その症状は徐々に悪化していく。

「3周目くらいから出ていましたね。『リアブレーキが熱いからブレーキバランスを前に持っていけ』って言われて。そしたらフロントがロックするし、試行錯誤しつつそれを調整しながら走ってた感じですね。ブレーキを踏んでも片側だけ効かなくてステアリングが勝手に右を向いてしまうような状態でした。最後はバイブレーションまで出てきたからちょっと危険すぎるかなと思って……」

 42周目、チームは可夢偉をピットに呼び入れ、そのままエンジンを切るように指示した。あまりに呆気ないエンディングだった。

 しかし、今の自分たちにやれることをやり切った可夢偉は、清々しい表情をしていた。

「よくやれたと思います。チームもバタバタの中でやって来て、決勝までトラブルなく走ったっていうのは、チームのみんなが頑張ったって思う。僕自身も、(クルマが問題を抱えた)あの状況であれ以上やれって言われても限界やったと思うし。ロシアで終わってたら、モヤモヤしたまま自分の一生を終えたんかなって思うし、とりあえず最終戦に出られてスッキリしてよかった。うん、満足できました」

 スタート前のグリッド上でどんな気持ちだったのかと聞くと、可夢偉はしみじみと言った。

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