【F1】可夢偉の本心。「もしかしたらこれで最後なんかなぁ」

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 だが、5月のヨーロッパラウンドを迎える頃から開発予算は削られ、新たなパーツの製造ができなくなった。チームの成績は停滞し、モナコでは千載一遇のポイント獲得のチャンスをライバルチームのマルシアに阻まれ、失望の連続だった。

 ついには、7月にチームが売却され、新たな経営陣が乗り込んできてからは別のチームとなってしまった。新たな資金投入によって保留となっていたアップデートの開発は行なわれたものの、持参金ありきのドライバー選定など、資金優先の運営になることで、シーズン後半戦はもはや成績を追求する姿勢は失われてしまった。

「この最終戦でどこまでやれれば満足かといわれれば、まぁ自己満足(を目指すだけ)じゃないですか? ベストのクルマだったらやることは勝つことしかないけど、僕らはグリッド上で最低のクルマですからね、間違いなく。今のチーム状況では何か目標を目指してレースをすることなんてできないし、結果を望むことは難しい。自分が満足できるレースをするというくらいしかない。もしこれが最後のレースになったとしても思い残すことがないように、自分自身が満足できるように楽しもうっていう、それだけです」

 アブダビGPでは、今年ずっと苦楽をともにしてきたレースエンジニアもデータエンジニアもおらず、もう1台のマシンを担当していたデータエンジニアとコンビを組むことになった。だが、可夢偉はそれに不満を述べたりはしなかった。

 マシンのパーツは、新型リアカウルこそ再び用意されたが、ひとつしかない最新型フロントウイングはチームに持参金を持ち込んだチームメイトのウィル・スティーブンスに与えられることになった。可夢偉は粘り強く交渉したものの、それを覆すことは難しかった。

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