【F1】重圧との戦い。ハミルトン、王座獲得の舞台裏 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

「たとえば、ウイリアムズが好スタートを切って僕らの間に入ることもありうるからね」

 イギリスGPやシンガポールGPでは、トラブルでレースを失っていたロズベルグが口にしたそんなシナリオも頭をよぎる。もちろん、チームはそうなった場合も想定してレース戦略を用意しているが、抜き所の少ないヤスマリーナ・サーキットでは、最高速の速いウイリアムズ勢を抜くのは容易なことではない。そして、バトルをすることはマシンに必要以上の負荷をかけてしまい、トラブルを引き起こしかねない。

 2007年の最終戦ブラジルGPで、ハミルトンは選手権リーダーとして臨んだにも関わらずステアリングのトラブルで最後方まで落ちてタイトルに手が届かなかった(年間総合優勝はフェラーリのキミ・ライコネン)。5位以内でフィニッシュすれば良いだけだった翌2008年の最終戦ブラジルでも、雨に翻弄されて順位を落とし、最終ラップの最終コーナーで5位に入るという際どいタイトルの獲得だった。

 考えれば考えるほど、ネガティブなイマジネーションが広がっていく。

 純粋な速さでは抜群のハミルトンだが、精神的な弱さを指摘する声は多い。過去のタイトル決定戦では、「平常心で戦えなかったことは事実だ」とハミルトン自身もそれを認める。

「2008年の時は、今ほどの知識がなかった。だから、いつものようなレースアプローチができなかったんだ。今年も『明日はタイトルが決まるレースだ、マシンに何かが起きてタイトルを失うことだってあるかもしれない』と考えたりもした。ネガティブな考え方に支配されてもおかしくなかった。でも僕は、それをポジティブなものにするように全力を尽くした。積み重ねてきた経験と知識が僕を導いてくれたんだ」

 後ろ向きの思考を振り切り、ポジティブな気持ちでレースに臨む。それは単純に、いつもと同じように何も考えず、そのレースで勝つことだけを目指して戦うことだった。そうやって果たしたのがシーズン前半戦の5連勝であり、後半戦の5連勝だった。

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