【F1】重圧との戦い。ハミルトン、王座獲得の舞台裏 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 ただしロズベルグは、アブダビGPで優勝しても、ハミルトンが2位に入ればタイトルを獲得することはできない。条件は厳しいが、だからこそロズベルグはプレッシャーから解放されて目の前の優勝だけを目指してアブダビGPに臨むことができた。レース週末を前に、精神的優位に立っていたのは追う側のロズベルグの方だったのだ。

「ブラジルでも僕は進歩することができた。オースティンの経験のおかげで、僕は大きな自信を得ることができたんだ。今は目の前のレースに勝つことだけを考えている。ルイスが3位以下になるためには、少しばかり運も必要だし、彼に何かが起きることを期待するしかない。僕はやれることをやって彼にプレッシャーを与えるだけだ。チャンスはないわけじゃない」(ロズベルグ)

 ハミルトンも目の前の勝利だけを考え、プレッシャーは感じていないと口にしていた。しかし、レースに集中するために、今回は家族をアブダビに呼ばず、ひとりで孤独に戦うことを選んだほど、いつもの精神状態ではなかった。そして、土曜の予選でロズベルグにポールポジションを奪われ、自らは2位――。

 予選が終わった土曜の夜、ハミルトンはホテルのプライベートビーチに出て、ひとりの時間を過ごしていた。

 いくら選手権をリードしていようとも、2位に入れば王座が決まろうとも、何が起きるかは誰にも分からない。開幕戦やカナダGPで自身の身に起きたように、トラブルが起きないとも限らない。とりわけ、ハンガリーGPの予選でパワーユニットが火災に見舞われて以来、ロズベルグよりも1基少ないパワーユニットで戦ってきたハミルトンには、信頼性の不安があった(パワーユニットは年間5基の制限がある)。土曜夜のハミルトンは、極端に口数が少なく、ナーバスになっていることがありありと見てとれた。

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