【F1】ロシアGPでリタイアした小林可夢偉の本音 (5ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 初めからレースを完走できないことが分かっていたのなら、どうしてスタートさせたのか。可夢偉にとってそれは、どんな状況でも全力で戦うドライバーの尊厳を無視した受け入れがたい行為だった。

「うん、納得いってないよね。なぜこんなことになったのか、僕にはちょっと理解できないです。だったらそもそもスタートさせるなよっていう話ですからね。(チームスタッフの)僕らはみんな普通にレースをしてたからね」

 可夢偉はまっすぐにこちらの目を見てそう言った。そこには強い意思が感じられた。

 これまで可夢偉は、チームに対して思うところはあっても、それを明確に言葉に表してはこなかった。しかし、ロシアGPを終えて、可夢偉ははっきりと言った。それはレースを途中で打ち切るという行為そのものよりも、そうなることが分かっていてレースをさせたチームの行為が、ドライバーやスタッフに対する裏切りに他ならなかったからだ。

 これが茶番や八百長だとは言わない。マイレージ寿命がギリギリでいつ壊れるか知れないパーツで走る危険は犯せないというチームの判断は間違いではない。しかし、それはレースをスタートする前に分かっていたことだったのではないか――。

 チームメイトに比べて性能が大きく劣るマシンしか与えられないことを、可夢偉は分かっていた。走行距離が厳しく制約されることも分かっていた。それでもなお、なぜロシアに来たのか。

 ソチに着いてからずっと続けてきた可夢偉の自問自答の答えは出ていた。

「いやぁ……アホやな、って。(ロシアに来たのは)失敗したなっていうのが心からの気持ちですね。マトモに走らせてくれへんし、マトモなクルマでもないし、FP-1も(メリに)取られて、なんのこっちゃ分からんグダグダのまま終わった1週間やからね」

 そして可夢偉は言った。

「次のレースは、(エリクソンと)同じスペックじゃないと(次のアメリカGPには)行かないですね。それとスペアパーツも何個か作ってくれないと」

 チームに対する最後通牒だった。

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