【F1】ハミルトンが母国GPで手にした勝利以上のもの (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 ハミルトンはこれまで、ファンから非難されることも少なくなかった。それは、自身の肌の色と決して無関係でないことを彼は知っている。F1にデビューしてからも、それ以前の私生活でも、彼はいつも苦渋を味わい、しかしその悔しさをバネにしてここまで戦い抜いてきた。

「僕はいつもネガティブな気持ちを、ポジティブなパワーに変換して戦ってきたんだ」

 ハミルトンはいつもそう語っていた。おそらく、父との語らいの中であらためてそんな気持ちを思い出したのだろう。日曜の朝にサーキットに現れたハミルトンの表情は、前夜のそれから一変していた。

「昨日は最悪だったし完全に打ちのめされた。ファンとチーム、そして自分自身をガッカリさせてしまったんだから、気分は最悪だった。本当にツラい1日だった。もう一度自分自身を取り戻さなければならなかった。チャンピオンシップをつかみ取りたいのなら、ここでもう一度立ち上がらなければならないと思ったんだ。昨日のネガティブな気持ちを、ポジティブな力に変えること。それが僕にとって最大の仕事だった」

 また、家族の支えだけでなく、地元大観衆の大声援があったからこそ、彼は再び心を奮い立たせることができたのかもしれない。

「10万人以上のお客さんが見に来てくれているし、できるだけ前でフィニッシュしたい。これだけ大勢のお客さんを前にすると、本当に素晴らしい気分になる。だから僕もみんなにポジティブなエナジーをお返ししたい。自分にできることは最大限やり尽くしたい」

 その言葉どおり、決勝で6番グリッドからスタートしたハミルトンは、オープニングラップから果敢に攻めた。すぐに4位に上がり、クラッシュ後の再スタートでも、マクラーレンの2台を抜き去って僚友ロズベルグに次ぐ2位まで挽回した。

 そして、ピットストップでは迷うことなくチームメイトとは異なるタイヤに履き替えた。そうでなければ、チームの方針としてコース上でのバトルは許されないからだ。ハードタイヤを履いたハミルトンは好ペースで追い上げ、ロズベルグ攻略も見え始めた。そんな矢先、ロズベルグのギアボックスが音を上げてスローダウンしていき、そのままリタイア。大観衆の歓声とともに首位はハミルトンのものとなった。もう彼の敵はいなかった。そのままトップでチェッカーを受け、イギリスGPの勝利は彼のものとなった。

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