【F1】ハミルトンが母国GPで手にした勝利以上のもの (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 イギリスにはモータースポーツを愛し、敬い、共に生きる文化が根付いている。だからこそ、ハミルトンやバトンらイギリス人ドライバーたちはその声援を背にここで戦うことを誇りに思う。

「イギリス人ドライバーにとって、イギリスGPは特別な週末だよ。ここに来て大観衆がどれだけ僕らを応援してくれているのかを目にすれば、興奮するし、素晴らしい気分になる。こんな体験ができる場所なんて、ここ以外世界中のどこにもない。アスリートとして最高の体験だよ」

 そう語ったハミルトンだったが、最速のマシンを手にしながら、その声援に応えることができなかった。

 開幕戦(3月)のオーストラリアGPと6月のカナダGPでリタイアを喫し、前戦オーストリアGPでは自らの予選アタックミスで優勝を逃した。5月のスペインGP以降、ハミルトンは勝利から遠ざかっている。チャンピオンシップ争いで、じわじわと開いていく僚友ロズベルグとの差を前に、ハミルトンは焦りを感じていた(イギリスGP前の時点で29ポイント差)。5月のモナコGPから続く悪い流れを、シルバーストンで断ち切りたかった。

 しかし、悪夢の予選でハミルトンはさらに窮地へと追い込まれてしまった。

「決勝は、傷口を最小限に抑えるためのレースになるだろうね。僕は前のクルマを何台も抜いていかなければならない。それに対してニコは前がクリーンな状態で走ることができるからね......」

 またしてもロズベルグに勝利をさらわれることになる、ハミルトンはそう考えていた。そんな心の折れかけたハミルトンを救ったのは、家族の存在だった。予選後の夜、ハミルトンは両親や弟とともにすごし、とりわけ幼少期からともに各地を転戦してカートレースを戦い、F1にたどり着くまでマネージメントを担当してくれた父と語り合ったという。

「プレッシャーは本当に大きかった。2セットを失ったテニスプレーヤーのような心境だった。そんななかで自分の心のギアを入れ直し、自分を取り戻すのは簡単なことじゃない。昨夜は家族とかなり長い時間をともにすごし、父とずっと話したんだ。そのおかげで、僕はこうして自分を取り戻すことができた」

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