【F1】売却が噂されるケータハムで、可夢偉が語った本音

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 常人には理解するのが難しい感覚だが、可夢偉は自分にしか分からないその感覚をどう表現すれば周りに理解してもらえるのか、もどかしそうに言葉を探すが、なかなか適切な表現が見つからない。それはきっと、日本で異端児と言われた可夢偉がこれまでレースキャリアを通してずっと感じ続けてきたことなのかもしれない。

 よくよく話を聞いてみれば、つまりはできるだけブレーキングで車体の姿勢を変えないようにして、マシンを空力的に安定させながらターンインしていくということのようだ。

「ターンインのきっかけだけ与えてやると、あとは自然にクルマが曲がっていくような感じ。そこに放り込むんですよ」

 独自の感性を持っているという点で言えば、可夢偉は土曜日の予選前にもその片鱗を見せていた。

 午前中のフリー走行の終わりが近付こうとしている中で、可夢偉のマシンがリアを滑らせながら最終コーナーを立ち上がってきてそのままスピンをした映像が映し出された。前にはニコ・ロズベルグが走っていて、可夢偉の後ろからも続々と最後のアタックラップをこなしているマシンたちがやってくる。可夢偉はそのまま後ろ向きにランオフエリアへと進んで安全な場所に止まったが、少しヒヤリとするような場面だった。

 しかし後でそのことを聞くと、当の本人はしてやったりという顔で言ってのけた。

「あれはね、わざとスピンしたんです。そうじゃないとケータハムなんて映してくれないでしょ?」

 一体どういうことなのか? これも常人にはにわかには信じがたい話だ。

「僕はアタックラップやったんですけど、ロズベルグが前でゆっくり走ってて。向こうはケータハムごときに道を譲ってくれないんです。僕が(アタックを妨害されて)文句を言うても、ただほざいてるだけになるから、どうせタイムが出せへんのやったら(邪魔されたように見せて)綺麗にスピンするくらいのことしたら、テレビも映してくれるかなって思ってああやったんですよ(笑)。どんだけアイツらが遅いクルマに気をつかってないかっていうことを見せられるかなって思って」

 ケータハムのマシンではどうあがいてもラップタイムでトップチームに対抗できないが、せめて自分の叫びは届けたい。そんな思いが可夢偉をわざとスピンするという行動に駆り立てたのだった。

 折しも、チームの周辺が騒がしくなってきていた。ケータハムはチーム売却が間近であるという報道や、即時撤退だという過激な噂まであった。5月中旬のモナコGPの頃から、そんな雑音ばかりになっていた。

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