【F1】フォースインディアの「企業秘密」を担う男・松崎淳 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 ピットガレージの中央には、今年から松崎の専用作業スペースが用意され、マシンがピットに戻ってくるたびに走り終わったタイヤの状況をつぶさにチェックしては、再びマシンから送られて来るデータを表示するモニター画面に戻る。ドライバーは走行セッションを終えた後も、また決勝直前のグリッドでも、松崎と入念な話し合いをする。こうして彼らの"企業秘密"は構築されていくのだ。

 カナダGP決勝は、スタートから13~15周程度で上位勢のスーパーソフトタイヤがダメになってしまい、続々とピットに飛び込んでくる中で、フォースインディアのペレスだけは同じタイヤで実に34周を走破した。それも、実はまだ余裕があったのだと松崎は明かす。

「我々はもっと行けましたね。タイヤ的には走れる範囲をストラテジスト(レース戦略担当エンジニア)に伝えてあって、あとは戦況を見ながら彼らが決める。そのタイミングがあのラップだったということですね」

 ストレート主体のモントリオールサーキットは、本来フォースインディアにとって有利なはずのサーキットだ。しかし、予選では中団に埋もれてしまった。なぜなら、空気抵抗を減らして最高速を引き延ばすためのカナダ専用パッケージを用意できなかったからだ。

「どうしてもストレートの伸びが足りなかったんです。本当はウイリアムズ並みにストレートを速くすることもできたんですけど、ウチのチーム固有の問題のせいで、それができなかったんです。ですから、レース重視でセットアップせざるを得なかった」

 松崎は苦笑いをしながらそう明かした。明言こそしなかったが、おそらくはチーム予算の都合上、カナダのような特殊なサーキット用の開発に許可が下りなかったのだろう。しかし、開発ができなかった分、タイヤに優しい決勝重視のセットアップに集中したことが功を奏したのだ。

 フォースインディアは、今年3月の第3戦バーレーンGPでも、同じように決勝でライバルたちよりも少ないピットストップで走り切り、ペレスが3位表彰台を手に入れていた。2010年限りでブリヂストンがF1から撤退し、フォースインディアに加わった松崎にとって、それはこのチームの一員として手にした初めての表彰台だった。

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