【F1】あきらめない男・可夢偉が心待ちにする「最後のパーツ」
ハミルトンと可夢偉のラップタイムは1周で4秒もの大差があった。だが、世界が違うのはラップタイムよりもマシン挙動の方だった。車載映像に目線を向けたまま、可夢偉は話す。
「『すごいな』としか言いようがない。(低速コーナーからの立ち上がりで)ほら、トラクションとかすごいもん。トラクションコントロール(※禁止されている電子制御装置)がついているとしか思えないようなトラクションのかかりかたですよ(苦笑)」
※発進・加速時にタイヤの空転を防止する装置
可夢偉の予選順位は21位。チームメイトのエリクソンには勝ったが、コンストラクターズランキングを争うライバルチームのマルシアには0.8秒の差を付けられ、さらに、シーズン序盤のライバルだったザウバーには1.4秒も引き離された。彼らの背中は見えなくなっていた。
「スペインGPのアップデートで、完全にマルシアの方が前に行っている感じがするし、今週もずっと負け続けている。この予選結果はむしろ僕らが挽回したくらいで、今週で一番マシなタイム差になった」
ケータハムの開発は歩みが遅く、マシン性能の進歩は期待していたほど得られていない。そして、モナコで新しいパーツは一切投入されなかった。可夢偉は思わずこぼした。
「こんな予定ではなかったんですけどね......。今はダントツに遅い。ダントツに負けているし、だんだん差が開いている......」
それでも、可夢偉は望みを捨てていなかった。これまでのレースでも明らかだったように、決勝ではマルシアやザウバーとの差は縮まる。1周のピーク性能ではかなわなくても、78周の距離を争うのならば、勝ち目はある。事実、予選で勝ち目がないと見切りをつけた可夢偉は、決勝でなるべくタイヤを保たせること、タイヤをうまく使うことに主眼を置いてマシンのセットアップを進めていた。
「一番大事なのは決勝なんで、どこに焦点を持っていくかっていうことやと思うんです」
そう語る可夢偉は、モナコはアクシデントの多い市街地サーキットなだけに、荒れた展開になることに望みをかけていた。上位勢が何台かリタイアすることがあれば、ポイント獲得のチャンスが巡ってくる。
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