2014.05.05

川井一仁が明かす「忘れられないセナとのケンカ」

  • 川喜田研●インタビュー・構成 interview by Kawakita Ken

 僕もセナを怒らせたことがある。88年シーズン後のオフに、セナがインタビューの時間に遅れてきたことがあって、45分間の予定だったのに20分しかできないと言うから、いきなり「モナコGPのリタイアの話ですけど......」と切り出したんだ。そうしたらセナが「お前は何でそんな悪いことばかり聞くんだ?」と怒り出すから「勝ったレースはどうでもいい。それよりも勝てなかったレースで『なぜ勝てなかったか?』に興味があるんだ」と答えた。そうしたら彼は、インタビューの途中で切り上げて帰っちゃったんだよ。
 
 面倒くさいけど一応、仲直りしないといけないから、3カ月後、ブラジルであったシーズン前のテストの取材に行くときに、成田空港の模型屋で5万円ぐらいする2気筒のラジコン用エンジンを買っていったんだ(※注:ラジコン飛行機の操縦はセナの数少ない趣味のひとつだった)。

 でも、ヤツに直接謝るのはこっちとしてもシャクだったから、当時、セナのマネージャーをやっていた叔父さんのアルマンドに「あの時ゴメンなって、これをセナに渡しといてね......」と頼んだわけ。そうしたら後で、コースサイドでテスト走行を見ていた俺の肩をセナが後ろからポンポンッと叩いてきて、「あれ、ありがとう。あの時は俺も悪かったから......」ってさ。まぁ、それで仲直りだよね(笑)。


 セナで特に印象に残っているレースは何かと考えると、いろいろありすぎて、何を挙げたらいいのかわからない......。88年のモナコとか、93年の雨のドニントン(イギリス)......。ともかく、数え上げたらきりがない。でも、あえて言えば、89年の鈴鹿、日本GPだろうか。予選で2位のアラン・プロストを1.7秒もぶっちぎって、予選ポールポジションを獲得した時の、あの圧倒的な速さというのは印象的だった。

 今ほど緻密ではないにせよ、あの頃すでに走行データの分析ができるようになっていたけど、同じマクラーレン・ホンダに乗るプロストより1.7秒も速いっていうのは異常だったね。プロストだってその時、すでに世界チャンピオン2回獲得していたんだから、ほんとに尋常じゃない速さだと思う。