【F1】小林可夢偉、やっと完走も「ホッとしている場合じゃない」

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

「今日はまず完走することを最優先に走ったけど、ちゃんと戦ってればザウバーより前に行ってたかもしれへんね。でも、まだそんなこと言ってる場合じゃないから。そんなことは気にせずに走らないと。クルマを学ぶにはまだまだ時間が必要なんやから」

 可夢偉はとにかく目の前のレースではなくもっと先を見据えて淡々と走り、3回を予定していたタイヤ交換も2回に抑えてレースを走り切った。

 赤道直下の高温多湿ゆえ、灼熱のマレーシアではコクピット内の温度は約60度にも達する。そんな環境で1時間40分のレースを終えたドライバーたちは汗にまみれで疲労困憊し、パルクフェルメ裏で待ち構える取材陣に対応できるまでにしばらくの時間を要する。最大でも2リットル程度しか搭載できないドリンクを飲みきってしまい、軽い脱水症状で朦朧としながら走り切ったドライバーもいたほどだ。

 そんな中で可夢偉は、1年ぶりのF1レースであるにも関わらず平然とした顔でカメラの前に立った。

「いやぁ、レース(が終わるのが)早いなぁって思いましたね。あと1時間くらい行けますよ、僕。だって、(昨年は)24時間耐久レースやってたんやから(笑)。アレに比べたら短すぎるわ!っていうくらいです」

 可夢偉はそう言って笑った。

 元々ドライビング中にドリンクを飲まない可夢偉は、この暑さの中でもほとんどドリンクの消費はなかったという。

「去年の11月からF1に乗るって決めてトレーニングをしてきたし、そしたらいつの間にか体重も絞られて、2009年にデビューした(今より筋肉量の少なかった)時よりも軽くなったんです。たぶん、今のF1ドライバーの中で一番軽いと思う。今までで一番身体のコンディションが仕上がっているんです」

 そんな可夢偉にとって、F1復帰が決まってからというもの、満足するにはほど遠い距離しか走ることができなかった2カ月間は、もどかしいものだったに違いない。だからこそ、ようやく射してきた光明に可夢偉の表情も明るく見えた。マレーシアの暑さなど、たいした問題ではなかった。

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