昏睡1カ月。ミハエル・シューマッハの「奇跡」を再び (3ページ目)

  • 川喜田研●文 text by Kawakita Ken photo by Getty Images

 その後のフェラーリの黄金時代は、シューマッハの持つ圧倒的なカリスマ性と求心力が、多くの才能を惹きつけ、チームとしてひとつにまとまることで築かれた。そしてそれは、彼にしか成しえない「奇跡」だったと思う。

 通算7度のドライバーズタイトルや、その他の華々しい記録と同様、あるいは、それ以上に、フェラーリを再生させることに成功したこの5年間が、シューマッハというドライバーの本当の凄さ、偉大さを象徴しているように思う。

 シューマッハはその後、2006年末に一度は引退を表明したものの、3年のブランクを経て、2010年にF1にカムバック。メルセデスのエースとして再び頂点を目指す戦いを始めた。しかし、2012年までの3シーズンに及んだメルセデスでのF1再挑戦は、1度も勝利の美酒を味わうことなく、予選ポールポジション1回、3位表彰台1回という、期待していたものとは違う形でその幕を閉じることになった。

 メルセデスのマシンがトップクラスの戦闘力を備えていなかったことが、不本意な結果の最大の要因であることは確かだが、シューマッハ自身の衰えもまた、隠しようのない事実だった。今思い起こせば、メルセデスでの3年間は、史上最強のドライバーとしてF1に君臨し続けた彼が、自らの衰えを直視し、納得するために必要な時間だったように思う。決して「有終の美」とはいえない幕切れだったかもしれないが、生粋の「戦士」らしい最後であり、彼が成し遂げてきた数々の偉業が色あせるわけではない。

 今、病院のベッドの上で眠り続けるシューマッハは、どんな夢を見ているのだろう――。コース上で戦う自分か、それとも、愛する家族と過ごす穏やかな時間か……。長い間、厳しい戦いに明け暮れてきた彼が、この試練を乗り越えて目を覚まし、再び「第2の人生」を歩み始めることを、今はただ祈るのみだ。


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