ついに小林可夢偉がF1復帰。シート獲得までの舞台裏

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 昨年10月の日本GPの週末、鈴鹿に姿を見せた可夢偉に、「以前話していたように、ポイントの獲れる上位チームでしか走るつもりはない?」と聞くと、彼はその質問に真正面からは答えずに、こう話した。

「自分からわざわざ遅いチームに行くようなことはしないけど、自分が行ける中でできるだけ良いチームに行くだけですよ」

 この時点ですでに、可夢偉は覚悟を決めていたようだ。

 たとえ下位チームであっても乗りたいのだと。

 当初、可夢偉のマネージメント側は下位チームからの参戦には否定的な見解を持っていた。レーシングドライバーとしての価値を高め、将来長きにわたって「契約金を受け取って走るドライバー」にすることが彼らの任務だからだ。その見地からすれば、たとえF1とはいえ下位チームに億単位の持参金を持ち込んで乗ることは、決して褒められたことではなかった。

 しかし、可夢偉は「F1で走りたい」という思いを選んだ。

 12月19日、可夢偉がイギリスにあるケータハムのファクトリーを訪れ、交渉が始まった。

 そこでも課題になったのは、持ち込み資金の額だ。ケータハムは基本的に、LCCエアアジアなどを経営する実業家、トニー・フェルナンデスの資金と、ドライバーの持ち込み資金によって運営されてきた。2014年シーズンに向けても、20億円規模のスポンサーマネーを持つギド・ヴァン・デル・ガルデらが候補に名を連ねていた。フランス企業の支援を受けるシャルル・ピックしかり、スウェーデン企業の支援があるマーカス・エリクソンしかり。

 資金がなければチームは立ちゆかない。だから、チームとしては莫大な資金を持ち込むドライバーを必要としていた。と同時に、ふたりのうちひとりはマシン開発を託すことのできる経験あるドライバーが欲しかった。

 当初、可夢偉自身はFIAの2014年エントリーリスト発表が行なわれる1月10日までにシートは決まるものと見ていたようだが、ケータハムのドライバー決定は遅れに遅れ、チーム首脳陣は、先週まではヴァン・デル・ガルデと契約を結ぶべく交渉を行なっていたとの情報もある。

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