【MotoGP】マルケスとロッシ、新旧天才の隣に「無二のパートナー」あり (3ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 マルケスについてもそれは同様だ。2013年に最高峰クラスへ昇格してレプソル・ホンダ・チームに所属するにあたり、チーフメカニックにはMoto2時代のサンティ・エルナンデスを指名した。チーフメカニックは、選手の声を吸い上げてマシンのセットアップを煮詰めてゆく陣頭指揮を執り、レース戦略でも胆となる役割だけに、自分のことを最もよく理解してくれる人物にその職を任せたいと思うのは、選手にして見れば当然の心理だろう。

 選手とチーフメカニックは、強烈な信頼関係を媒介として結びついている。

チーフメカニックのエルナンデスと話し込むマルケスチーフメカニックのエルナンデスと話し込むマルケス たとえば、第16戦オーストラリアGPでの出来事は、この両者の関係性を図らずも示す好例だった。このレースでマルケス陣営はピットインの周回数を間違えて失格処分を受け、少なくともチャンピオンに王手をかけることができた一戦をノーポイントで落としてしまった。

 だが、マルケスはレース後の囲み会見やその後の取材でも「皆で計画を立ててプランを練った。チーム全体の責任だから、誰かひとりを責めるわけにはいかない」と話し、いっさいエルナンデスを責めなかった。

 実際には、ピットに戻って失格事由を知らされた直後のマルケスは胸部を保護するプロテクターを椅子に叩きつけて憤然とその場を去り、後に残されたエルナンデスはうつむき加減でただ茫然としていた。そのときの様子から推測すれば、すくなくともエルナンデス自身は自分を責め続けていたにちがいない。

 後日、エルナンデスが明かしたところによれば、マルケスがピットを去ったしばらく後に謝罪に行ったエルナンデスをマルケスは抱きしめ、僕たちはチームじゃないか、と語りかけたという。

「ムジェロで僕が転倒したときは、助けてくれただろ。転倒は、全員の転倒。失敗は、皆の失敗さ。今回のことを教訓にし、もう忘れて次のレースに集中しよう」

 マルケス自身も後日、「次の日本GPが連戦で翌週に迫っていたので、レースに集中するためには慌ただしいスケジュールが逆にいい方向に作用した」と振り返っている。

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