【F1】王者ベッテルを唯一苦しめたグロージャンと小松礼雄 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki  桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 日本GPでの首位快走(結果は3位)が記憶に新しいが、その前週の韓国GPでもグロージャンはベッテルから数秒差で2位を走っていた(結果は3位)。ドイツGP(8位)では、「セーフティカーが出なければ勝っていた」(小松)という走りを見せた。それ以外にも、小松が「めちゃくちゃ速かったがゆえに勝ちを意識しすぎた」と語ったモナコGP(リタイア)、不可解な「ペナルティがなければ勝てると思った」と言うハンガリーGP(6位)など、今季は多くのグランプリで、グロージャンは表彰台圏内でのレースを見せている。

「ウチの予算を考えれば、すごいですよね。ロマンは今やベッテルのライバルですからね。韓国でもセーフティカーが入る前はベッテル対ロマンだったし、鈴鹿でもベッテルと戦えたのはロマンだけだったでしょ。インドも17位からスタートして3位ですからね。ちゃんと予選を戦えていれば、2位ですよ」

 小松は、鈴鹿では「勝ちにいっていた」と言う。

 最後はベッテルがフレッシュなタイヤとマシン本来の速さを生かして抜き去っていったが、スタート直後から首位を快走するグロージャンと小松は初優勝を意識していた。

「ウチらはウチらのプランどおりに行っただけです、勝ちにいっていましたから。だからウェバーが3ストップに変えようが、惑わされることなく行きました。ベッテルの戦略は分かっていたけど、クルマの差があるからしょうがない。それを考えれば、あそこまで戦えたこと自体がすごいことなんです」

 昨シーズンの相次ぐクラッシュで"危険なドライバー"というレッテルを貼られてしまい、スーパーライセンス剥奪の危機に直面したグロージャンだが、彼は小松と二人三脚でその苦境を乗り切ってきた。時に厳しく、時に優しく接して、ともに成長していこうという若い小松だからこそ、グロージャンはここまでやってこられた。

 そして「今年のグロージャンは大きく成長した」と、小松は言う。

「結果が目に見えてきたのが9月のシンガポールGPくらいから。何か変わったのかってみんな言うけど、僕はもっと前から良くなっていたと思っています。シルバーストン(6月)くらいから、彼自身のドライビングには何の問題もないんです。今の彼は本当にミスをしない」

 今でも無線で「ブロックされた」「グリップがない」とわめくグロージャンの声がテレビ中継で放送されるが、だからといって彼が冷静さを失っているわけではない。

 10月のインドGPでは、グロージャンが僚友キミ・ライコネンにブロックされ、それに不満を述べたグロージャンに対して、チームが過激な叱責をしたことが大きな話題になったが、テレビは長い無線交信のある一部分だけしか公開しない。グロージャン自身は極めて冷静だった。「以前のグロージャンとはもう違う」と小松は言う。

「最近の彼の良いところは、ああやって無線でギャアギャア怒っていても(苦笑)、ちゃんと運転するんです。逆に、ああやって言うことで発散しているんだと思う(笑)。昔は騒いでテンパって、それが運転にも影響していたけど、今はそれがない。(インドGPでの)キミとのバトルの時も、無線では怒っていたけど、一度後ろに引いて、それからちゃんと抜いていましたからね。怒っていても冷静さはあるわけです」

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