【F1】4連覇達成。ベッテルの根底にある「強さの秘密」 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki  桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

「彼は常に謙虚で、決して偉ぶらない。過去4年間、数々の栄光を収めてきた中でも、セバスチャンは常に地に足を着け、純朴な人間であり続けた。だからこそ常に学び続け、マシンに乗り込むたびに少しずつ知識を増やしていく。そのことには常に感心させられるよ」

 レッドブルのマシン設計責任者であり、過去20年間で数々の名車を生み出してきた"鬼才"エイドリアン・ニューウェイは、ベッテルの強さをそう表現した。

 フリー走行が行なわれる前日の木曜日、どのグランプリでもベッテルはサーキットを歩く。

 歩いても得るものなどないと断言する者もいるが、ベッテルはレースエンジニアたちと談笑しながら歩くこの時間を大切にしている。そして時折、コーナーで立ち止まってはひとりのエンジニアと話し込む。データがプリントアウトされた紙を見ながら、身振り手振りでクルマの動きを表現したり、コーナーの先を確認したりする。

 その相手とは、パフォーマンスエンジニアのティム・マリオン。走行データを解析し、より効率的で速いドライビング方法を見つけ出すのが彼の仕事だ。ベッテルは彼とともにコースを歩きながら、ドライビングを徹底的に磨き上げているのだ。

 直感だけに頼るのではなく、今のピレリタイヤ、そしてエンジン排気ブローイングを活用した空力に合わせたドライビング。それを追求した結果、ベッテルがブレーキを踏み、ステアリングを切り、スロットルを踏み直すタイミングは他のドライバーたちとはやや異なり、その特殊なドライビングが彼の速さをさらに強固なものにしている。

 パフォーマンスエンジニアのマリオンがレース中に無線に登場することはないが、彼のような裏方の存在がベッテルの速さを支えていることは間違いのない事実だ。こうした見えない努力を重ねて、何人もの裏方の支えがあって初めて、ベッテルは今の強さを手に入れている。

「ゴーカートからジュニアフォーミュラを経てF1へやってくるまでに、多くのことを教わり、感謝しなければならない人がたくさんいた。家族も大きな役割を果たしてくれた。僕はいつも人の言うことに耳を傾け、学ぼうと心がけてきた。ここまで到達するために、本当に一生懸命に努力してきたんだ」

 ベッテルは謙虚で、速さを探究することに対しては一切の妥協を許さない。それを苦痛だとも思わないし、レースのすべてを心から愛し、楽しんでいる。

 インドGPの予選でポールポジションを獲得した後、マシンを降りたベッテルはメカニックから送風機を手渡され、4輪すべてのホイールに風を当てて回った。

 ブレーキング時には1000度を超す高温になるブレーキディスクは、突然走行をやめると風が当たらなくなって過熱し、周囲のパーツを燃やしてしまう恐れがある。ピットイン時などはメカニックがすぐに送風機で風を当てて冷やすのだが、予選直後はマシンが隔離された状態になり、メカニックは近寄ることが許されていない。

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