【F1】可夢偉のライバル? 佐藤公哉がシート獲得へ急成長中 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki photo by Getty Images

 そのテスト走行の実績が認められて、公哉はF1参戦に必要なスーパーライセンスを取得し、鈴鹿にやって来た。資格の上では、すでにF1の公式セッションに参加することが許されているのだ。

 だが、公哉本人はまだまだF1マシンをものにできたとは感じていないようだ。それは、自分のドライビングでマシンを壊してチームに迷惑をかけることは避けたいという、慎重さゆえだった。

「F1はまったく次元が違うクルマなので、7月のテストはビックリしただけで1日が終わった。低中速コーナーは問題なく走れる。でも高速コーナーはダウンフォースを信じてアクセルを踏んだまま走ることが難しい。高速コーナーで限界を超えてしまうと大きくクラッシュしてしまいますからね。徐々にフィーリングを詰めているうちに、1日が終わってしまったという感じです」

 そんな段階だから、鈴鹿で無理をしてフリー走行に参加することを望んでいなかった。身体的にも、F1の激しい横G(重力)に耐えられるだけの首の筋力が「まだできていない」と言う。ダウンフォースの少ないAUTO GPのマシンなら、ステアリングを切ってややあってからマシンが曲がっていく。しかしF1は、ステアリングを切ったその瞬間に向きが変わり、「思いっきりひっぱたかれたような衝撃」が首にくるのだという。

「今の筋力のまま走ったら鈴鹿の1コーナーで首が取れかかっていたかもしれません(苦笑)」

 公哉は冗談めかしてそう言ったが、F1ドライバー特有の太い首は、F1マシンで走ることでしか鍛えることができない。首の太さはすなわち、F1マシンをドライブした経験の量で決まるのだ。

「F1は速度に対して生じる横Gが凄まじいですね。初めてピレリのミディアムタイヤの新品を履いた時は、最初の一瞬のグリップが想像を絶するくらいでビックリしましたし、首もしんどかったです」

 日本GPの週末で、公哉はザウバーのピットガレージからチームとともに全セッションの行方を見守り、各セッションの技術ミーティングにも参加。F1チームの戦いの現場がどんなものかを学んだ。F3やAUTO GPより高度なレースの世界を目の当たりにして、公哉は感心しきりだった。

「ピットガレージの中でチームの無線を聞くことも、良い経験になりました。基本的に話している内容はAUTO GPと大差はなくて、どこが滑るとか、どこでもっと曲がるようにしたいとか、そういう話でした。ただ、話している内容がかなり細かい。それにフットワークが軽いことに驚きました。走行中でも『データ上でこうなっているからこう変えよう』と、ドライバーと無線で話してセッション中にどんどんセッティングを変えていく。それが世界のトップカテゴリーの仕事の早さなんだなと感じました」

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