【MotoGP】ペドロサが後輩マルケスに見せつけた「意地」の優勝 (2ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 マシンを開発してきたHRC(ホンダ・レーシング)が、このケーブルの取り回しを20年以上変更していなかったという事実からも、いかにこれが誰にも想像できない事態だったか、ということがわかる。

 これまでもいろいろな不運に見舞われてきたペドロサだが、「ここまでついていないのか」と誰もが溜め息をつくほどの運のなさだ。幸運との巡り合わせの多寡で「持っている」「持っていない」という言い方をすることがあるが、ペドロサほど「持っていない」人も珍しい。

 この転倒で、アラゴンGPでノーポイントに終わったペドロサは、悲願であったチャンピオン獲得の可能性が事実上潰(つい)えてしまった。一方のマルケスはそのレースで優勝し、史上最年少王座へさらに一歩近づいた。

 この天と地ほどの運の開きと結果の差は、偶然的なアクシデントがあったとはいえ、ペドロサにとって面白かろうはずがない。少なくとも表面上は良好だった両者の関係は、これで一気に冷えきった。マレーシアGPの事前記者会見でも、ペドロサはマルケスと目を合わせることはなく、口をきこうともしなかった。

 アラゴンGPの転倒で腰部を打撲したペドロサは、マレーシアGP金曜のフリー走行に鎮痛剤を服用して臨み、午前午後ともトップタイムを記録した。しかし、土曜の予選はマルケスが最速タイムを更新する走りでポールポジションを獲得。一方のペドロサは5番手に沈んだ。

「明日も、鎮痛剤を服用してレースに臨む。効果の持続時間は大きな問題ではなくて、大事なのはスタートに集中できるようにすること。レースが始まってしまえば、リズムにのっていいペースで走っているときに痛みがやって来ても、なんとか堪(こら)えて走りきることはできる。しかし、スターティンググリッドについているときに痛みがあると、集中力が切れるのでいつものようなスタートを決めることができない」

 土曜の夕刻に、翌日の決勝に向けた意気込みを話すペドロサの表情からは、なにか悲痛なものすら感じ取れた。

 ペドロサは、決勝レースではその決意を結果につなげて優勝を飾り、マルケスに対して見事に意地を見せつけた。クールダウンラップを終えて、マシンを停めるパルクフェルメに戻ってきた際、TVカメラに対して見せたガッツポーズも、この勝利が心底うれしかったことをよく表している。

 ポイントランキングでも25点を加算して244点とし、今回3位で終わった現在年間ランキング2位のホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)との差を20点から11点へと縮めた。終盤3レースを残した状態でこの点差は、ペドロサにとって逆転でのランキング2位を狙う大きなモチベーションになるだろう。

 また、もしも、今回のマレーシアGPでマルケスの後塵を拝するような結果に終わっていたならば、周囲のペドロサに対する評価が大きく下がっていた可能性もある。それに加え、ペドロサのMotoGPライダーとしての自信にも大きな影響が及んでいたのではないか。

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