【F1】名門フェラーリを支える日本人エンジニア、浜島裕英の存在感 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki  桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 チームからの戦略指示に、アロンソは聞き返した。

「あと何周走ることになるんだ?」

 それに対してチームは、ここでピットインして走り切る作戦に賭けることを説明した。

「あそこから最後まで走り切るというのは、多少ギャンブルでした。最後の方はイチかバチか。交換した古いタイヤの摩耗度合いをチェックしてデータ予測をしたら、ギリギリ行けるかどうかだったんです」(浜島)

 残り36周で、首位ベッテルから4位までのレッドブルの2台とメルセデスの2台は、タイヤ交換でもう一度ピットストップが必要となる。一方、3位から5位に落ちたアロンソは、上位4台がピットストップをする間に、無交換で走り切って前に出ることを目指す。それが成功すれば、優勝の可能性も見えてくる。 

 そのギャンブルに乗ってみる価値はあるとアロンソは思った。というよりも、今の自分たちはギャンブルに打って出るしかないと確信していた。

「リスキーな賭けだった。あのタイヤで最後まで走り切るのは簡単じゃなかったよ。でも、セーフティカーが入った瞬間に、僕らはその戦略に決めたんだ。

 僕らはチャンピオンシップで首位のレッドブルに60ポイントも差をつけられていて、失うものなんて何もない。今日の戦略がうまくいかなかったら2位ではなく4位か5位でレースを終えていたかもしれないけど、勝てる可能性があるならそこに賭けるしかない」

 その結果、アロンソは、首位ベッテルこそ追い抜けなかったものの、ピットストップをしたメルセデスの2台とマーク・ウェバー(レッドブル)の前に出ることに成功して2位に浮上。リアタイヤのホイールスピンとスライドを最小限に抑えながら、タイヤに負荷を与えないように走り続けた。

懸念していたタイヤのデグラデーションも思いのほかひどくはなかった。そして、アロンソは巧みにタイヤをいたわりながら走り切って2位でチェッカーを受けた。ギャンブルに勝ったのだ。

「素晴らしい表彰台獲得だ。この2位は僕らにとって勝利に値するよ」

 アロンソは満足げな表情を見せた。

 タイヤ戦略が見事に功を奏した浜島は、意気揚々と表彰台の下からガレージに戻ってくると、チームスタッフたちとがっちり握手を交わした。

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