【F1】カナダで快勝。レッドブルが手に入れた「勝利のカギ」

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 タイヤマネジメントがレース結果を大きく左右する今のF1において、タイヤ専任エンジニアはどのチームものどから手が出るほど欲しい。そして、ここまでタイヤマネジメントで後れを取ってきたレッドブルが、ヴァッシェの起用にこぎ着けたのだ。

 彼がチームに加入したのは、カナダGP直前の月曜日。2月の開幕前テストまではザウバーに在籍しており、チームからの重要情報流出を防ぐためのいわゆる"ガーデニング休暇"(契約期間の最後数カ月に職務に携わらせないこと)を経ての移籍だ。

 レッドブルですぐに何かができるというわけではないだろうが、今季型タイヤの初テストでグレイニング(タイヤ表面ゴムのささくれ)管理に鍵があることを誰よりも早く見抜いていただけに、彼の加入がレッドブルにとって追い風になることは間違いない。

 彼の首には赤いパスが提げられていた。これはピットガレージだけでなく、走行セッション中のピットレーンにも立ち入ることが許されるパスだ。間近でフレキシブルにマシンやタイヤの状況をチェックすることができるのだが、運営団体FOMからの発給枚数は限られており、そんなところにもチームの彼に対する期待の高さがうかがえた。

 フリー走行でわずかなドライ路面を見つけて走ったロングランで、レッドブルは他チームよりも早くスーパーソフトタイヤのグリップを失っていた。勝機があるとすれば、マシン本来の速さを生かした先行逃げ切りの戦略だけだった。

 セバスチャン・ベッテルは、雨の予選でコンディションの良かった時間帯に最速タイムを記録してポールポジションを奪い取った。勝利への第一歩は、ここで固めることができたのだ。

 そして、カナダGPで初めて晴れ間が広がった日曜日、ベッテルは完璧なスタートを決めてレースをリードした。いきなり猛プッシュを見せ、後続のメルセデスAMG勢との差を一気に5秒にまで広げ、先行逃げ切りのための次なる手を着実に進めた。

 ベッテルには2位ルイス・ハミルトンとのタイム差と、ベッテル自身のラップタイムが随時無線で伝えられ、タイヤを痛めないよう厳格にペースをコントロールしながらレースを進めていった。

「セバスチャン我慢しろ、我慢するんだ!」

 レーシングドライバーの本能として、マシン本来のポテンシャルを引き出すアグレッシブなドライビングを切望するベッテルに対し、レースエンジニアのジローム・ロクランは彼のタイヤを保たせるために必死でコントロールする。

「ファステストラップを記録してしまっている。とにかく加速・減速時のタイヤの扱いをクリーンにしてくれ。今我々がやるべきことはそれだ」

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