【MotoGP】ロッシ、復活の2位で開幕戦から白熱の展開に (2ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 これはレース直後のコメントで、そこからうかがえるのは、どうやらロレンソ自身は序盤の展開がとくに緊迫したものだったと考えていた、ということだ。だが、2周目にペドロサとの差をすでに1.1秒、4周目には1.8秒と開いて、序盤から圧倒的に優位な展開に持ち込んでいる。この、ライダーの状況認識と実際のレース展開の差に、彼の性格のある一面がよく反映されているように思う。

 この選手は、非常に慎重で堅実な側面がある。テストなどでも、一発タイムで派手なラップタイムをアピールするよりも、たとえ地味でもレース周回を想定したロングランで着々と高いアベレージを刻み、実利的な成果を挙げることを好む。「華より実」を好む性格、といってもいいだろう。

 この堅実さが、昨年のように18戦中16戦の表彰台という驚異的な高水準の走りを可能にする。圧倒的なマージンを築いてもなお気を緩めずに有利な状況を確保しようとするこの慎重さがあるかぎり、ホルヘ・ロレンソは今年もチャンピオンの最有力候補であり続けるだろう。

 2位のロッシには、開幕前から大きな注目が集まっていた。一昨年と昨年、ドゥカティで不遇のシーズンを過ごした苦しさを振り返り、今回のレースウィークにはこんなことを話した。

「ものすごいプレッシャーだった。ぼくがトップで走ると皆は考えていたようだけれども、自分ではそれは無理だとわかっていた。だって、100%でバイクに乗れないんだから。ジャーナリストやファンが期待しているのは感じていたよ。でも、自分自身ではそんなの不可能だ、ととっくにわかっていた。今のほうが愉(たの)しいよ」

 4回のチャンピオンを獲得したヤマハへ復帰したことで、かつての華やかな走りが甦(よみがえ)るだろう、と多くの人々がその復活を見守った。しかし、天才が天才である時期はすでに終わったのではないか、という声にならない微妙な懸念も一方では漂っていた。

 今回の開幕戦では、予選の戦略に失敗して3列目7番グリッドに沈んだ。決勝レースは、そこから一気に巻き返しを図ったものの、気が急いたのか開始直後の2周目にオーバーラン。トップグループとの差は3秒、5秒、と周回ごとに大きく広がっていった。不可能を可能にしていたロッシの「マジック」も、34歳という年齢を重ねてもはや潰(つい)えてしまったのか、とも見えた。

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