2013.03.25
【F1】残った遺恨。
チームメイト同士のバトルの難しさ示したマレーシアGP

- 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)
「前走車に接近して走ればタイヤを痛めることになる。そして我々は今週末ずっとタイヤに関してはギリギリの状態だった。だから不必要なリスクは冒したくなかったんだ。だから我々はチームとして、あの最終ピットストップ以降はレースをコントロールしようとしていたんだ」
ベッテルはチームからの指示がポジションキープを示すものだとは思わなかったのだと弁解した。
「チームからの指示を意図的に無視したわけではないんだ。混乱していてチームから受けたメッセージを誤解してしまったんだ。彼を追い抜こうとすればそれだけリスクを冒すことになることは分かっていたからね。あんなにバトルを続ければ、お互いにタイヤをダメにして2台とも下位に沈んだ可能性だってあった」
だが、ホーナー代表はそれを否定する。ベッテルはすべてを理解したうえで、チームからの指示を無視したのだと。
「彼はきちんとコミュニケーションをとっていたし、その方法も熟知していたはずだ。つまり、彼は指示を無視することを選んだんだ。個人の欲求を、チームの利益よりも優先させたわけだ」
実はレッドブルはレースを前に、こうしたケースになった場合の対処法について何度も話し合いをしていた。そして、それはいつものことだ。途中までは自由に戦わせるが、最後はチームの利益を優先して無用な争いは避ける、というのがチームの方針だ。
レッドブルの後方にいたメルセデスAMGの2台も、同じような状況に直面していた。
2台ともに燃料が足りず燃費セーブの走りを強いられていたが、特に3位を走るルイス・ハミルトンの方にそれは顕著で、彼はあらゆる場所でスロットルを戻したり、低い回転数を使用するという苦しい走りを余儀なくされていた。
「僕の方が速いんだ、抜かせてくれないか? 前のレッドブルを追いかけようよ!」
ハミルトンの背後についたニコ・ロズベルグは何度もチームに訴えかけるが、チームからの返事はつれなかった。
「ニコ、ルイスとの差をキープしてくれ。2台をフィニッシュさせることを優先させるんだ。お願いだ」
不満を口にしながらも、ロズベルグはチームオーダーを守ってハミルトンに無用な仕掛けはしなかった。だからこそ、表彰台に上がったハミルトンも申し訳なさそうな表情を見せた。
「こんなかたちで表彰台に立つなんて、気分の良いものではないよ。正直言って、本当はニコがここに立っているべきだったと思う。彼の方がずっと僕よりもペースが良かったからね。僕は燃費もギリギリだったし、タイヤを保たせるのが厳しかった」