【F1】「自分の運を自ら生み出す」。最終戦でベッテルが見せた王者の貫祿 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 まず小林可夢偉(ザウバー)にストレートで抜かれ、続いてフェリペ・マッサ(フェラーリ)にも抜かれる。雨があがり乾いてきた路面で、雨用にセットアップされたベッテルのマシンは速さを失った。1周目の事故でマシンの排気管システムにダメージを負っており、排気管の過熱を防ぐためにエンジンパワーを低下させる処置をして走らざるを得なかったことも響いた。

「ドライコンディションではあまり速さがなかった。可夢偉の後ろで戦うだけの速さがなくてずっと抜けなかったんだ。マシンにダメージを負っていたこともあって、ストレートが遅かったから他のマシンに簡単に抜かれてしまったし、ライバルを抜くのも難しかった」

 追い打ちをかけるように、無線にトラブルが発生した。しかも間の悪いことに、チームからの音声は届くがベッテルからの音声がチームに届かないという状態。ヘルメットの中で話し伝えたと思ったことが、チームに伝わっていなかったことに気付いたのは、雨が再び降り始め、タイヤ交換を求めてピットインしたのにタイヤが用意されていなかった時だ。

「インターミディエイト(雨用とドライ用の中間のタイヤ)に交換しようと思ってピットインしたら、無線が壊れていたから伝わっていなくてタイヤが準備されていなかった。ピットストップのタイミングも間違いだったと思う。ドライに換えた1周後に雨が降ってきたんだからね」

 52周目にピットインしてドライタイヤに換えたベッテルだったが、直後の54周目に再びピットインして雨用タイヤに換えた。

 それでもベッテルは慌てず、そしてあきらめなかった。

「もちろん、正しい時に正しい場所にいることは必要だ。しかし、自分の運を自ら生み出すことは可能だと僕は信じている」

 自ら運命の糸を手繰り寄せるように、ベッテルはひとつずつ順位を上げていった。そして6位でフィニッシュ。ライバルのアロンソは2位に終わり、ふたりの戦いはわずか3ポイント差で決着がついた。

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